映画パンフは宇宙だ!(PATU)のメンバーで、今年上半期の映画パンフについて語り合う座談会を開催しました!
<座談会参加メンバー>
今井:副主宰
あずさ:イラスト担当
小島:アリ・アスター短編解説読本編集長
鈴木:「タレンタイム」ファンブック編集長
machi:広報PR担当
屋代:「裏切りのサーカス」ファンブック編集長
パンフマン:PATU Fan×Zine vol.03「ブリグズビー・ベア」編集長
パンフマン(以下、パ):スタジオジブリ出版部が毎月発行している『熱風』という小冊子があって、昨年11月から「映画プログラムという迷宮」という連載が始まっています。ここでは「プログラム」と呼ばれていますが「パンフレット」のことですね。制作や流通の裏話、判型や価格についてを知る手がかりとして、映画雑誌『ロードショー』(1972年6月号)の座談会記事が取り上げられています。ここには販売部数や当時の流行などが語られている今では貴重な興味深い情報の数々があります。
↓参考
https://twitter.com/pamphman/status/1522593598155653120
映画作品そのものについて語られたものは多いですが、映画パンフについてはまだ少ないと思うので、私たちでも魅力や現状などを語っていきたいです。前置きが長くなりましたが、今年上半期の映画パンフはいかがでしたか?「デザイン」「コンテンツ」「世界観」「価格」などに沿って振り返っていきたいです。
machi:振り返るにあたって毎月の記事を見直してたら、すっかり忘れてたので、役に立ちました。記録に残すのでも意味があったかなと。
鈴木:結構な数を網羅できた気がします。
パ:今年は1月から6月まで約140冊ピックアップしています。印象に残っているパンフはありますか?
【2022年も大活躍!大島依提亜さん、石井勇一さん】
machi:2022年上半期も大島依提亜さんのデザインが多かったですね。
パ:『ジョン・カーペーンター レトロスペクティブ』『コーダ あいのうた』『ちょっと思い出しただけ』『TITANE/チタン』『パリ13区』『カモンカモン』ですね。月1を超えるペースです。
machi:特に『パリ13区』が好きでした。黒紙にシルバーインクの加工で読みにくいかと思いましたが、そんなことなくて、スタイリッシュでカッコよかったです。
今井:グザヴィエ・ドラン監督『たかが世界の終わり』のパンフでも黒紙にシルバーのインクが使われていました。真ん中のポストカード風のページもいいですね。表紙の地図に使われている緑色は特殊な蛍光インクなんですかね。
鈴木:表紙のシルバーの部分が13区だそうです。モノクロの映画に合ったデザインでしたね。
パ:『カモンカモン』も『パリ13区』と同じ公開日でモノクロ作品である点も共通してました。
小島:『TITANE/チタン』も作品の世界観にも通じるメタリックで、エッジが効いているデザインでしたね。
鈴木:実際に開いてみて、こうやってページをずらして中心で留めると、閉じたときにこういうふうに見えるんだ、という仕組みがわかりますね。写真もしっかり選んで並べられています。
今井:作品は観られてないのですが、パンフだけ購入しました。
パ:やっぱり皆さんお持ちなんですね。
鈴木:みんな持っているとは教科書みたいですね(笑)。
パ:教科書にしては全くスタンダードな作りではないパンフですが!『ちょっと思い出しただけ』はボンヤリしてたら、公開から1ヶ月経ってしまい、既に売り切れて買えなかったんですが、昨年300冊購入されているコレクターの方が親切にも送ってくださって、入手できました。しかも、8種類のフライヤーを付けていただきました。
鈴木:大島依提亜さんは昨年の『ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021』でもデザインを担当されてたので、その繋がりで今回『ナイト・オン・ザ・プラネット』とのコラボビジュアルも担当されたのかも。
パ:『コーダ あいのうた』はアカデミー賞作品賞受賞に伴って、増刷分には受賞表記が記載されてます。受賞後と受賞前の2種類のバージョンがあることになります。
小島:パンフは一時期、売り切れていたので増刷されて入手しやすくなりましたね。
パ:昨年ベストパンフに選出させていただいた『花束みたいな恋をした』をデザインされた石井勇一さんは今年上半期、『オートクチュール』『階段の先には踊り場がある』『はい、泳げません』『オフィサー・アンド・スパイ』の4作品のパンフを手掛けられてます。
屋代:『階段の先には踊り場がある』は台本の体裁で、中身は全ページ袋とじになっています。知りたい情報もまとめてくれていて、もはやインディーズ映画でここまでやるかというクオリティでした。
パ:近場で上映がなくてパンフも手に入らないと思ってましたが、下北沢にあるシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』のサイトから購入できたので助かりました。
machi:『はい、泳げません』は『花束みたいな恋をした』と同じリトルモアとのタッグです。脚本が収録されていて、分厚いです。今回はスケッチブック型ではなく、方眼ノートがデザインに使われていますね。
鈴木:『オフィサー・アンド・スパイ』は作品の中に新聞が出てくるので、新聞を模したデザインになってます。
屋代:新聞紙を模したザラザラな書籍用紙が使われています。
パ:石井勇一(OTUA)さんのTwitterによると「中心に行くにしたがって日焼けしてない紙を使っている」「反ドレフュス派の市民が新聞などを燃やすシーン写真合わせて、実際の中面ページを燃焼」などなど制作裏話的なものを書かれているので、ぜひTwitterもフォローすると良いと思いました!大島依提亜さんもTwitterでパンフ制作のことを書かれてます。
【2022年上半期 注目のデザインは?】
鈴木:『愛なのに』『猫は逃げた』は2冊をくっつけると絵になるように作られていて、同時に買いたくなるデザインでした。
小島:今までこの手のパンフはありましたか?
パ:『劇場版 SPEC〜結〜』『漸ノ篇』『爻ノ篇』のパンフがそんな感じだった記憶があります。
鈴木:ただ、今回のようにシリーズでない独立した作品だと珍しいかもですね。
小島:監督と脚本のスイッチで作られた2作品でしたね。
鈴木:『ぼけますから、よろしくお願いします』は手作り感が感じられる温かみがあるデザインでした。ドキュメンタリーなのでスチールがなく、画像を切り取っているので少し粗いものもあるのですが、写真も豊富で配置に気を使われていました。
パ:デザインは大寿美トモエさんです。他にも今年上半期には『決戦は日曜日』『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』『355』『白い牛のバラッド』『アンネ・フランクと旅する日記』『ストレイ 犬が見た世界』『シャドウ・イン・クラウド』なども手掛けられていました。
小島:『クラム』はサイズが小さくて、若干高めでしたが、シールがついていたり、中に漫画があったり、いわゆるアート映画のパンフという感じで作品の世界観にも合ってました。
今井:『バブル』は表紙のシャボン玉の部分がキラキラしているのが特徴でした。
パ:Netflixと劇場と同時上映でしたっけ?
machi:劇場より先にNetflixで公開されてました。
鈴木:『ドリームプラン』は表紙が日本版のポスターと違うデザインで良かったです。あと、『恋は光』は、劇中に出てくる「あるノート」のカバーを登場人物が手作りするというシーンがあるのですが、そのカバーそっくりの装丁で、劇場の棚で目を引きました。
屋代:『ハケンアニメ!』の特別版はコンテ袋の封筒に入っているデザインで、パンフと劇中に登場するアニメ誌を模したものが入っていました。
今井:このパンフを知って、映画が観たくなりました!
鈴木:通常版と特別版の2種類ありましたか?
屋代:通常版が封筒に入っているパンフ単品です。映画も公開時はあまり動員が芳しくなかったのですが、宣伝や口コミで観客が戻ってきています。
パ:なので、特別版はもう売り切れているかも。こういう作りなので特別版の増刷は難しいかもしれません。
今井:昔、『恋の門』(2004)でもたしかパンフ本体と劇中の漫画がセットになっていましたね。
小島:『ガンパウダー・ミルクシェイク』はページを開けると拳銃が出てくる映画そのままというデザインが好きでした。最初ダイナーのメニュー表かと思いましたが、本がモチーフでしたね。
パ:デザインの岡野登さんは上半期には『前科者』『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』『死刑にいたる病』などを担当されてます。「MOVIE & DESIGN 映画宣伝ツールのアートディレクション」にお仕事がまとめられています。
今井:ベテランのデザイナーさんですね。
屋代:『死刑にいたる病』はパンフの最後に待ち受けるギミックにゾッとして、驚きました。
パ:あの仕掛けは『ソロモンの偽証(前編)』(2015)のパンフを思い出しました。
machi:『犬王』は糸綴じで箔押しのデザインで、増刷されたパンフは3版で表紙が青い紙に変わりました。
パ:初版と2版で使われていた表紙の紙がなくなったので変わったという情報を見かけた気がします。
鈴木:カッコいいデザインですよね。増刷分が入荷すると聞き、入荷日当日に映画館に行ったのですが、既になくなっていました。
屋代:『辻占恋慕』のパンフは劇中に出てくるアイドルのCDの形状でした。これを渡された時に「これはサントラじゃないんですか」って戸惑いました。背ラベルには「PAMPHLET」と表記があります。
パ:リーフレットもブックレットも映画に付随する印刷物はパンフレットと一括りにされてますね。「劇場用プログラム」という名称が使われている時もありますが。
屋代:ちなみに『辻占恋慕』のサントラはカセットテープで発売されてて、2,000円で、1,200円パンフより高いです。再生する手段がなくて聴けないのですが……。
小島:『真・事故物件 本当に怖い住民たち』ではサントラがカセットとCDで発売されましたが、聴けない人用にQRコードが用意されていました。QRコードは色々と活用の幅がありそうですね!
鈴木:映画ではないのですが、前にHomecomingsというバンドがカセットをリリースした時、プレイヤーを持っていない人も聴けるようにポータブルプレイヤーと一緒に販売していました。
パ:カセットテープとかVHSが少し前からリバイバルブームが起こっているという話は『ブリグズビー・ベア』のFanZineでもスズキユウリさんのインタビューで話しています。
鈴木:『さがす』のパンフも良かったです。
パ:デザインは韓国のプロパガンダさんでしたっけ?
鈴木:韓国のプロパガンダさんが宣伝ビジュアルとロゴをデザインされており、パンフ自体のデザインは、吉川俊彰(PLAINS)さんが担当されています。
【コンテンツが充実してたパンフは?】
小島:一番内容が充実してたのは何でしょうか?
パ:ページ数が多かった『ウエスト・サイド・ストーリー』でしょうか?
小島:あれは『シン・ウルトラマン』の別冊子みたいな感じの設定資料集ですよね。これはパンフと呼んでいいんですかね?別枠にしてもいいかもしれませんね。
パ:決められたページ数、制限のある中で、どういうテキストや写真をチョイスするか思案して、冊子を編集するのが、腕の見せ所という気がします。昨年、映画パンフを作ってみるというワークショップを開催しましたが、そこでメイキングブックをパンフとして販売する!と言う参加者がいたとしたら、それはかなり異端な発想ですよね。普通はそんな考えには至りませんし、何か事情があって、変わった形式での発売となったのかもしれません。
今井:そもそも、ウォルト・ディズニー・ジャパン配給の『ウエスト・サイド・ストーリー』は当初パンフの発売は無いとの情報がありました。昨年末にも『キングスマン:ファースト・エージェント』もパンフがないと言われてましたが、過去2作と同じ判型で発売されました。最近のディズニー関連作品の動向はいかがでしょうか。
鈴木:『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』『ナイトメア・アリー』のサーチライト作品は今年もムービーウォーカーさんが作られています。
パ:20世紀スタジオの作品もムービーウォーカーさんが一手に引き受けている感じですね。『ナイル殺人事件』もその一つでした。
鈴木:『ナイル殺人事件』は装丁が良かったですね。
今井:『アバター』の続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』もFOX系なので、今年の公開時にパンフが作られるか注目ですね。
小島:「Disney+ (ディズニープラス)」で配信中のドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』のパンフが作られてたのは驚きました。エピソードを全部紹介しているので、ディズニープラスに加入していなくて、見れない人でも読めば分かる内容になっていました。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で感じたもやもやが解消されます。
今井:このシリーズを見ていなかったので、確かにモヤモヤしました。
小島:『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のパンフとセット割引とかしてほしかったです!
パ:テレビドラマシリーズだとライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの『ベルリン・アレクサンダー広場』14話分が劇場で公開された時にパンフが作られていましたが、今回の『ワンダビジョン』は劇場で上映すらされてないにも関わらずパンフがあるという珍しいパターンでしたね。それなら『私ときどきレッサーパンダ』もパンフ販売してほしかった!
屋代:コンテンツでいうと『ドンバス』はほぼほぼテキストの分厚いパンフで、地図があって、各エピソード解説があって、登場人物全員の写真も掲載があります。『裏切りのサーカス』でも寄稿いただいた小泉悠さんのコラムも載っています。
鈴木:『ジョージア映画祭』も全作品の解説が写真つきで掲載してあり、資料として価値があるパンフでした。上映作品(2作)の原作の日本語訳もあって、ジョージアの国の解説もあります。裏表紙はジョージアの伝統的な刺繍のデザインが施されていて素敵なんです。
小島:『イタリア映画祭2022』でもパンフはありましたが、こちらは簡単な作品紹介があるだけのカタログという感じでした。
パ:『グレート・インディアン・キッチン』も印象に残っています。
machi:料理解説や服装の意味、何故トイレ掃除をしているのかなどトリビアが充実していて、読んで初めてわかることが色々と書かれてましたね。
小島:料理がたくさん出てきますが、映画の中では言及がなかったので、文化背景がしっかり説明しているのは良いですね。一般的には名前は知られていないけど専門的なすごい方のコラムがとても面白いので、ライトなコラムだと多少、物足りなさを感じてしまうようにはなりました。
鈴木:『ナイル殺人事件』ではアガサ・クリスティに造詣が深い方が書かれて魅力的でした。
パ:『メタモルフォーゼの縁側』は映画ライターなどのコラムはなくて、原作者インタビューなどで構成されていて、それが逆に良い感じになってました。
machi:原作者の方の撮影レポートが漫画で載っていましたね。サーチライトマガジンはいつも良いですが、『フレンチ・ディスパッチ』は特に良くて、山崎まどかさんによる「ニューヨーカー」の解説が勉強になりました。
鈴木:実在の人物と照らし合わせた登場人物の解説があって、分かりやすかったですね。
パ:山崎まどかさんは一番パンフレットに執筆されたんじゃないでしょうか。他に『エル プラネタ』『355』『アイム・ユア・マン』『シャドウ・イン・クラウド』『オードリー・ヘプバーン』『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』『帰らない日曜日』などです。
小島:いま一番書かれている方かもしれません。
パ:パンフに寄稿された文章の多くが収録された『映画の感傷』というエッセイ集も出版されています。
(後半に続く)