後編は主に映画館でのアルバイト経験から見えてきた映画パンフの事情について語ってもらいました!
パ:映画館でアルバイトを始めた理由は何ですか。
じ:福利厚生が魅力的なバイトを考えた時にまず浮かんだのが映画館でした。様々な映画館を比較したのですが、その中でも鑑賞制度が一番魅力的だったのが現在のバイト先です。シフト希望でバツを付けてない日は映画見放題なので、入社してから制度を利用して通算190本ほど鑑賞しています。
パ:結構、鑑賞されていますね!正しい福利厚生の使い方です!
じ:高校生の時には年間片手で数えられるほどしか観ていませんでしたが、映画館でバイトを始めてからは、周りにも進められて、これまで観て来なかった洋画とか流されるままに観て行くとどんどん本数が増えていきました。
小島:それまではどちらかと言えば邦画をご覧になっていたのでしょうか。
じ:洋画とか芸術系の映画は全く観てなくて、ミーハーだったこともあり、流行ものとかアニメを中心に観ていました。
小島:当時、パンフは買ってなかったですか?
じ:高校生の時は買ってなかったです。
小島:映画パンフの存在は認識されていましたか。
パ:何故このような質問をするかというと映画パンフを知らない「映画パンフって何?」という人も中にはいらっしゃるようで、例えば、Yahoo!知恵袋でも「映画パンフとチラシの違いは何ですか」といった質問もされています。
じ:そこは微妙なところで、グッズ売り場で目にはしていたはずですが、買うか迷う段階までは至ってなかったです。実際のところ映画館でアルバイトを始めてから、しっかりと存在を認知しました。
パ:映画館で作品を鑑賞するものの、グッズ売り場には立ち寄らない方も多くいらっしゃいます。
小島:映画館ではどのような仕事をされていましたか。
じ:フロアや飲食売店に加えて、グッズとして納品された物の検品や品出し、売り場での販売まで担当していました。グッズが入荷してから最後までを常に見守っていた感じですね。人気作のパンフは公開初日に売り切れることもありましたが、ミニシアター寄りの作品だとなかなか売れないです。
小島:映画パンフの購買率ってどのくらいでしたか。
じ:作品によってまちまちですが、論文執筆にあたって差し支えない範囲で教えてほしいと上司に頼んだところ、購入される方は平均すると鑑賞者の内せいぜい1割前後という結果がわかりました。
小島:パンフを購入される方の年齢層はいかがでしょうか。
じ:自分と同世代の若い方で買っていく人はレアですが、ジャニーズ系の俳優さんが主演とかだとそのファンが買ってくれていた印象はあります。主に、自分の親世代の年齢の方が比較的多いかなと思います。なかには、数作品分まとめて購入される方もいますね。
パ:私も大学生の時はパンフまで手が回らず、作品を観るだけで精一杯なところはありました。
小島:学生だと金銭面がネックになってしまうところはありますよね。ただ、若い方にこそ解説や評論を読んでほしいんですよね。
じ:福利厚生のおかげで、パンフを買っても1,000円以内で楽しめていますが、就職して社会人になって働き始めると経済状況がある程度は潤うものの、映画館で映画を観てパンフも買ってという鑑賞スタイルを続けられるか正直わからないですね。
パ:これまでの倍かかるようになります。
じ:価格の話でいうと、売り場で『ウエスト・サイド・ストーリー』のパンフについて「価格が高い」とお客さんからクレームが来て、同僚が怒られていました(笑)。「パンフで3,000円取るなんてどうなんだ」と言われていたようですが、こちらで決めているわけではないのでどうしようもなく、ちと理不尽ですね…(苦笑)。
小島:最近の傾向では特別版と通常版の2種類があって、特別版のほうが高いのは仕方がない面がありましたが、今回に関してはこれしか選びようがないんですよね。『ウエスト・サイド・ストーリー』のパンフには「映画パンフとは何か」とその定義を考えさせられました。普段、目にするパンフレットというよりは実質メイキング本なので情報が過剰なんですよね。知りたいことを一通り知るというよりは作品にどっぷり浸かる感じなので、これまでのパンフとはちょっと違うのではないかなと最近もPATUのメンバーで話をしていたところです。
じ:各シーンの絵コンテもあって充実していますよね。確かに読んでいて楽しいのですが、どのくらいのレベルのファン層に向けられて、作られたんだろうという気はしました。
パ:今まではパンフレットがまずあって、もっと詳しく知りたい人はメイキング本を読んでくださいねという感じでした。そもそも『ウエスト・サイド・ストーリー』に関しては、パンフは作られないという話が事前に出ていました。結果、発売されはしましたが、このような形とは想定しませんでした。
小島:これをパンフレットと言うのかと驚きました。
特別版パンフは売れる?
パ:論文の中では購買欲を刺激される要因となる「初回限定版」「特別版」といったパンフもピックアップされていました。
じ:『ゴジラvsコング』もそうでしたが、特別版はほぼ毎回売り切れています。『呪術廻戦』など人気アニメ作品の特別版パンフも、たいてい公開後の土日で完売しています。
小島:コアなファンの方は限定版を求めて初日に行くんでしょうね。
特別版が売り切れていた場合、「特別版でないなら要らない」という人と「じゃあ通常版でいいや」という人どちらが多いでしょうか。
じ:後者が多いですね。マーベル系の作品だと初めて映画パンフを購入されるような方も結構いらっしゃって、そのようなライトなファンの方には「通常版と特別版の2種類もあるんですか」と逆に聞かれることもあります。買えるなら限定の特別版が良いけど、ないならそれでいいですと通常版を購入されます。
パ:『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』も特別版は一時期品切れでしたが復活しました。
じ:今まで基本的に、特別版が売り切れるとそのまま追加入荷はなかったのですが、復活するパターンもあるんだと思いました。自分は特別版に間に合わず妥協で通常版を買ってしまっていたので、裏切られた気分でしたね(笑)。
パ:前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でも売り切れた後で復活していた記憶があります。
じ:仕組みというか理由がよくわからないですね。
小島:特別版と通常版の内容は少ししか違いはありませんよね。もちろんファンの方には嬉しいのかもしれませんが、表紙がゴージャスかポスターが追加されるくらいの違いが大半ではないでしょうか。『マトリックス レザレクションズ』のように中身が完全に違うのは珍しいです。全て特別版仕様だけにするとさらに高額になってしまうのかもしれませんが。
じ:本当にコアなファンの方だと特別版と通常版の2冊買われる方もいらっしゃいました。配給会社さんの側からすれば売れるものは売っておきたいという判断があるんでしょうかね。
パンフを買ったきっかけ
ながせ:どのような動機でパンフを買われていますか。
じ:純粋に観終わって、良い映画だなと思った作品のパンフを買っています。Filmarksで4.0以上のスコアをつけられる映画は買っちゃっている気がします。
小島:映画パンフは宇宙だ!のメンバーにはとりあえず何でも買うという人もいて、感覚が麻痺しているというか、ある意味で本末転倒かもしれません(笑)。
じ:イベントでコレクションを見せていただきましたが、キャリーケースにパンフがぎっちり詰まっていて、選りすぐりしているどころではないなと思いました(笑)。その領域まで行きたいという憧れはありますが、経済的な限界もありますし、観た後でちょっと思っていたのと違うかなという作品は買っていません。情報が知りたいという動機はもちろんありますが、どちらかと言えば観賞した記念として物体的なものを残したい気持ちが大きいです。
ながせ:パンフを読んでみたいと思った最初のきっかけは何ですか。
じ:持っているパンフは合計40冊くらいになったのですが、大学1年生の時はたぶん買ってなかったですね。おそらく最初は『愛がなんだ』だった気がします。お恥ずかしながら、公開の2ヵ月前くらいにちょうど失恋してしまったんですね(笑)。まあやられていたんですが、映画を観たら自分が居て、カッコ悪いけど肯定されていて、「こんなに映画に共感できるんだ、救われるんだ」とこれまでにないくらい感動したんです。このまま帰ってしまったら勿体無い、と初めて自分の意思でパンフを買った気がします。
パ:きっかけは重要です。論文にも引用されていましたが、横浜の映画館ジャック&ベティさんのブログに掲載されたアンケートがあります。普段聞かれることのない貴重な意見が集められています。
<参考>「映画パンフレット、買いますか?」
パンフに期待するもの
小島:気に入った作品の記念とは言え、中身は読めないケースが多いですが、パンフのコンテンツには何を期待しますか。
じ:邦画と洋画、ジャンルによっても期待するものが違いますね。『愛がなんだ』のような映画は監督や脚本家の方の考えを深掘りしたものだったり、登場人物の細かい背景とかを読んで共感したい欲求が強いですし、マーベル系の作品だと、オタク心をくすぐるような、例えば原作ではこういうヴィランだったが今回はこう改変して、というプロダクションノート的な裏話を求めています。スチールやイラストによるヴィジュアルページも好きなので、その辺りの充実度も期待してしまいます。
小島:共感できる作品は割と文章をしっかり読みたいというところはありますか。
じ:みっちり書いてくれれば嬉しいですね。最近だと、アカデミー賞にもノミネートした濱口竜介監督の『偶然と想像』のパンフレットがもはや雑誌の文量で驚きました。
小島:周りの友達にパンフを買う理由を尋ねたことがありますか。
じ:当たり前なのですが、アルバイト先はほとんど映画好きなわけです。にもかかわらず、思いのほかみんな買ってなかったんですよね。論文の参考にとパンフを買う理由を聞きたかったのですが、何故買うのかではなく、どうして買わないかを深堀りすることになりました(笑)。もちろんパンフを売る立場なのでパンフがどのようなものかを認識はしていて、その上で買ってないんですよね。Filmarksでいうスコア4.8くらいじゃないと買わないみたいな人もいて、それぞれ基準が違ったりもしました。
パ:オールタイムベスト級の作品に出会って、ようやく買われているんですね。
小島:映画パンフの内容についてぼんやりとしか分かってない方が多いと思うんです。パンフの内容が伝われば購入に繋がるでしょうか。金銭面がやはりネックとお考えでしょうか。パンフはどういう風にすれば広がっていくんでしょうかね。
じ:難しい問題だと感じています。実際、売場でパンフの中身を見せてほしいというお客さんもいます。「こういう内容なんだ」と知ってから買ってくださるお客さんもいらっしゃれば、ページ数が少なかったり、求めているコンテンツが無いとわかって買わないとなるパターンもあります。PATUのメンバーの方みたいに、映画鑑賞前にパンフを買っていくお客さんもいますので、いつか自分もやってみたいと思っています。
パ:ジャック&ベティさんの通販ページにはパンフの中身が掲載されていて、買う前に参考にできます。今は違いますけど、昔は私も観た後に、さすがにこれは買わなくてもいいかなというのはスルーしていました。以前、宇多丸さんの番組に三角締めさんが出演された時に作品は良くなかったけどパンフはとても良かった特集があって、衝撃的でした(笑)。PATUのメンバーにしても必ずパンフ買っているわけではなくて、そうでない方ももちろんいます。
ながせ:個人的には気に入らなかった作品のパンフが家にあるのが嫌というのはありますね(笑)。鑑賞後に「ちょっといまいちだな」と思った作品のパンフは買わないことも多いです。一方で、最近は先にパンフを知ってから、作品に興味を持つパターンも増えてきました。パンフを読んで作品への見方が変わるという、私にとってはこれはPATUの活動を通して変わってきた部分です。行動としては少数派かもしれませんが。
小島:自分の視点が浅かったりして、気づくことがありますね。好き嫌いが先行してしまって、バイアスがかかっているのですが、なるほどこういう視点からみたらそうだよねと思い直すことはあります。
ながせ:鑑賞中に「あれ?これはどうなの?」って思っても、パンフを読んで理解できることがあったり、あるいは一見して気づかなかった細かい意図や仕掛けに気づくこともありますね。映画をより楽しめるというか、映画の内容をフォローできるのは良いパンフの条件の一つかもしれません。
小島:映画自体は酷評されていますが『大怪獣のあとしまつ』のパンフ自体はすごくいいと聞いています。
パ:松竹事業部さんによるパンフなのでクオリティは高いのです。
じ:映画を観に行きましたが、なんというか、まぁ評価が低い理由はわかりました(笑)。超失礼な言い方ですが、何でこうなっちゃったんだろうという製作の過程は知りたくなったのですが、本棚のラインナップに加えるのもどうかなと思って手に取りませんでした。
小島:前半でもお話しましたが、やはりマーケット自体が縮小しているという危機感を覚えています。それが顕著なのが今年の『ウエスト・サイド・ストーリー』の一件かと思いました。
じ:この規模の大作だと普段はもっとパンフは売れています。今回は目に見えて売れていません。この価格でこの内容だとコアな層しか結局買っていません。そもそも映画パンフは誰のためのものか改めて考えさせられる機会になったのではないでしょうか。
パ:『大怪獣のあとしまつ』は近所の映画館で売り切れていましたが、『ウエスト・サイド・ストーリー』はまだ在庫が残っていましたね。あとは映画鑑賞の環境自体も変わってきています。劇場公開から配信までの間隔が短くなっています。その影響もあるのかもしれません。
小島:『ラストナイト・イン・ソーホー』は配信が既に決まっていましたが、劇場で公開されて、さらにパンフも作られていました。パンフの有無がお客さんにとって劇場観賞のモチベーションになったりするものでしょうか。
じ:パンフが動機になっているかは微妙ですね。ただ、ちょっと待てば配信される映画にも関わらず、それでも劇場でと観に来てくれるお客さんは多かったです。料金的に考えると割に合わないはずですが、自分も劇場で観れるならそちらを選択します。
パ:自宅と劇場は違いますよね。
じ:Netflixには入っていますが、福利厚生のおかげで劇場で無料で見れてしまうので、配信の方が高いと感じていました(笑)。ミーハーなのですぐに話題作を観たいというのもありますが、環境面でも極力映画館でしか観たくないです。例えば『コーダ あいのうた』の“あのシーン”は、自宅でどれだけ静かにして観ても劇場での感覚を再現できるものではありません。またスパイダーマン最新作での“例のシーン”で、会場全体がざわつく体験ができるのも劇場ならではです。
小島:これから、どういう関係のお仕事につかれるのですか。
じ:広告代理店の仕事です。映画関係も検討したのですが。
小島:将来的にパンフを作る側に回ってみたいと思いますか。
じ:めちゃくちゃ思っています。自分の興味ある人から話を聞くのがもともと好きで、良い作品と思ったら、その作り手の人に話を伺って、第三者に話を伝えたいです。なので、作り手側に回れたら楽しいだろうなと思います!この唯一無二のパンフレット文化を一個人としても守っていきたいと強く願っています。
(終わり)
(2022年2月20日、Zoomにて)