映画パンフは宇宙だ!(PATU)のメンバーで、「2021年このパンフがすごい!」アンケートの募集結果や今年の映画パンフについて語り合う座談会を開催しました!
<座談会参加メンバー>
今井:副主宰
小島:アリ・アスター短編解説読本編集長
清水:広報PR担当
ながせ:データベース、Podcast担当
浦田:レビュー・造形担当
パンフマン:PATU Fan×Zine vol.03「ブリグズビー・ベア」編集長
【募集した2021年のベスト映画パンフ投票結果】
パンフマン(以下、パ):「2021年このパンフがすごい!」アンケートの結果を発表しました。ランキングはインパクトが強い、印象に残るパンフが上位となりました。みなさん、結果はいかがでしたか?
今井:1位の『花束みたいな恋をした』は誰もがうなる一冊でしたね。実在のスケッチブックを踏襲して、劇中に登場したチケットやポスターも綴じ込んでいます。リトルモア発行のパンフは以前からボリューミーなものが多かったですが、デザイナー石井勇一さんの仕事も見事で、特に超充実の内容で文句なしという感じでした。
小島:PATUメンバーが選んだパンフとアンケートで募集した結果の違いが面白かったです。私は日本映画をあまり見ないので知らない邦画のパンフも多くて、凄そうなのが並んでいて、今年は邦画のパンフも隈なくチェックしたいと思いました。
清水:私も普段邦画のパンフをチェックしそびれていたりするのですが、昨年は話題になっていたので『花束みたいな恋をした』は急いで買いに行った思い出があります。
パ:『花束みたいな恋をした』は大ヒットした作品でもありました。昨年の興行収入でも上位です。
今井:オリジナル作品でありながらも、大健闘しましたね。
清水:これまでのリトルモアさん制作のパンフで記憶に残るものはありますか?
今井:近年で印象深いのは『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』ですね。青と赤を基調としたデザインのパンフでした。私の手元にあるものでは『空中庭園』や『まほろ駅前』シリーズもすごい一品ですね。出版社でもある強みを生かしてますね。
<リトルモア編集の『空中庭園』(2005)と『夜空はいつでも最高密度の青色だ 映画』(2016)パンフ>
清水:料理本などもおしゃれなものを出版されていますよね。ちなみに『花束みたいな恋をした』のパンフはリトルモアさんのホームページで購入できます!
ながせ:『花束みたいな恋をした』や『すばらしき世界』も昨年1~2月頃の作品で、パンフ豊作の一年になりそうな予感がしていましたし、本当にどちらも充実したパンフでした。『花束〜』のパンフは文房具が個人的に好きなのでマルマンのスケッチブックを模しているというだけで欲しくて。中身も充実していて1位にふさわしいです。
パ:2020年は『ミッドサマー』のパンフを1位に選んだ記憶がありますが、同じ1〜2月の時期の公開でした。今年も早速『ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022』という怪物級のパンフがありましたね。
小島:ベスト級のパンフが年初にいきなり来た感じです。
今井:『ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022』は大島依提亜さんのデザインですよね。VHS風のデザインで、1998年の『ピンク・フラミンゴ』リバイバル上映時のパンフを彷彿とさせます。
<VHS風のパンフ(左から)『ホット・サマー・ナイツ』(2018)、『ジョンカーペンター レトロスペクティブ』(2022)、『ピンク・フラミンゴ』(1998)>
小島:ポスターのデザインも素晴らしかったです。
パ:アンケートでの投票で多かった『白蛇:縁起』のパンフは持ってなかったので通販で購入しました。
今井:『白蛇:縁起』は表紙にトレーシングペーパーのような半透明の紙が使われているんですね。
浦田:『アナザーラウンド』のパンフは丁寧に作られていて、情報も多くて、派手ではないのですが、とてもいいパンフだと思いました。
今井:この作品も投票で人気でした。装丁がしっかりしていて、公開の規模に比べて、大作映画の風情があります。
清水:お酒についてのコラムや北欧ジャーナリストの森百合子さんの寄稿など充実していて、読めば作品をもっと楽しめますね。マッツ・ミケルセンの写真が豊富なのでファンの方にもおすすめです。
小島:『アンテベラム』のパンフもすごい凝っているわけではないのですが、前後どちらからでも読める仕様になっています。ネタバレ込みで詳しく解説されている内容なのですが、映画は何の説明もなく始まります。びっくりしたのが、劇場で若いお客さんが「冒頭で戦争があったけど、あれ何の戦争だったの?」みたいな話をしていて、そういうときに時代背景を説明してくれるパンフは重要だと思いました。
<『アンテベラム』(2021)のパンフは前後どちらからでも読める仕様>
パ:『アンテベラム』のパンフみたいに両面から読めるタイプは2つの作品が1つになった「2 in 1」型ではありますが、単体での作品は珍しいかもです。
小島:『スパイラル ソウ オールリセット』はこれまでの『ソウ』シリーズを総括する内容のパンフで、基本的にシリーズ全部見てる人が多いかと思いますが、これだけ単独で観に行った人のために、パンフはあればいいと思いました。
今井:そういえば、歴代『ソウ』シリーズのパンフは作り込みが凄くて、表紙に立体的なギミックがあったり、遊べる仕様が施されていました。
小島:今回はわりとあっさりしていましたが、うずまきがキーワードになっていて、このモチーフを中心としたデザインで、スタイリッシュに仕上げられていました。
<歴代『ソウ』シリーズのパンフには様々な仕掛けが!>
【パンフはすぐに買うべし】
ながせ:『アメリカン・ユートピア』のパンフが買えなかったのが残念で、早く買っておけば良かったと後悔しました。結構早い段階で売り切れていて、「増刷はない」と劇場の方に言われました。
パ:『アメリカン・ユートピア』は日本では本国アメリカよりヒットした作品ですね。
小島:『ストップ・メイキング・センス』のリバイバル上映が好評でそこから口コミで広がっていったみたいです。
ながせ:往年のファンだけでなく、若い方も結構見に来ていて、幅広い層に波及していったんですね。
パ:投票ランキングを見てこのパンフがほしいなと思ったら、公式の通販サイトで購入できるのもあります。ただ、通販で購入できるものよりも、圧倒的に買えないものが多いです。
今井:パンフは基本的には興行に紐づいて作られるものなので、上映が終わるとレアアイテムになってしまいます。でも最近だと通販サイトも増えてきて、そのおかげで買いそびれても購入できたりしますね。
小島:基本的には上映終了後には劇場から引き上げてしまうんですよね。
今井:そういう契約になっていることが多いんです。
小島:やはりすぐに買うのが一番いいです。
【2021年パンフレット売り切れ問題】
清水:人気のパンフレット売り切れ問題についてもアンケートでご意見をいただきました。店頭在庫がなくなって、フリマサイトで高額転売されていたパンフもあったというコメントもありました。
小島:新型コロナウイルスの状況もあって、劇場さんも客足が読めなくて、最初の入荷分を絞られていたのかもしれません。しばらくすると在庫が復活することもあるので、劇場の方に尋ねたり、諦めないでチェックしたほうがいいですね。
清水:何軒か映画館を回って探してみるのも一つの手ですね。
パ:『マリグナント』もすぐに売り切れて、その後に在庫が追加されていました。
浦田:『マリグナント』は売り切れで買い逃してしまいました…。
小島:コアなホラーファンしか来ないのではないかという予想を裏切って、『ミッドサマー』のように幅広い層に見られた映画でした。それで、パンフも追加補充という形になったのでしょう。ジャンプスケアや暗い場所に得体の知れないものがいて驚かせたり、グロさもあって色んな種類の怖さが満遍なく入っている作品でした。誰が見ても怖く感じやすいのがヒットに繋がったのかなとも思います。
パ:R18指定の作品なんですけどね。
小島:はらわたとか血はギリギリOKらしいのですが、人体の切り口が見えると規制されるそうです。なので、その部分はカットして、レイティングを下げて公開された映画も昨年はありました。
パ:R18の作品のパンフは18歳未満でも買えるんですかね?
今井:該当シーンが載ってなければ問題ないでしょうね。
パ:なるほど。作品は見られなくてもパンフは買えるんですね。
今井:見られなくてもパンフで我慢しろ、と(笑)。
浦田:『ムーン・ライトシャドウ』も売り切れだったので、実物がどんなのか気になっています。
今井:ハードカバーですね。厚さがほどよくて、本というわけでもなく、あくまでパンフのラインに収まっていて、バランスがいいと思いました。
清水:ここまで本の形をしたパンフは珍しいですか?
今井:あまりない気がします。このサイズ感だと『ロイヤル・テネンバウムズ』を思い出しました。
パ:最初から書籍コードがついて、本として発売されているタイプもあります。原一男監督の『水俣曼荼羅』は書籍でした。『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』というドキュメンタリー映画は最初はパンフとして発売されて、後になって増補版の書籍になる珍しいパターンもありました。
清水:映画館だけでなく、書店でも買えるものもあるんですね。
今井:『SR サイタマノラッパー』のシリーズを総括した書籍があって、もともとは「すごいパンフにする」という意気込みで作られたようです。公式本という体裁ですが、紙の選び方とかどことなくパンフっぽいんです。最近だと、これは完全に書籍ですが、森田芳光特集に合わせて分厚い全作品総括本が出ました。劇場で並んでいると買わなきゃという気にさせるパンフ的なものでした。
【パンフの価格についてどう思う?】
小島:近年、豪華版や特別版が増えてきました。「今回は高いから諦めます」とTwitterで呟いてる人もいたりして、段々高額なパンフが出てきている傾向がある気がします。
パ:投票いただいた中にあった『サマー・ゴースト』は1,800円で映画の鑑賞料金と変わらない値段でしたが、「1ページ1ページが厚く、色彩の発色もよく、画集のようでした」と満足のいくパンフだったようです。
浦田:『君は永遠にそいつらより若い』も1,800円でしたが、340ページもあってシナリオが掲載されていて、充実していました。
今井:このパンフも本みたいなものでしたね。
小島:『マトリックス レザレクションズ』は特別版と通常版の中身が全く違うという、珍しいパターンでした。通常版にいくつかの要素がプラスアルファされた特別版ではなく全くの別物です。
浦田:アトロクで宇多丸さんが特別版と通常版で中身が違うと言っていたので、買いに行きました。この部分をもっと宣伝してほしかったです。
パ:『マトリックス レザレクションズ』のパンフは過去3部作と同じ特大サイズなのかなと思ってましたが、違いました。
今井:そこは同じにできなかったんですね。
パ:あのサイズを収納できるレジ袋のサイズが今はないみたいです。私が行った映画館には特別版と通常版は全く別の物ですと知らせる張り紙がありましたが、気づかなかった人もいるかもしれません。価格でいうと『映画:フィッシュマンズ』のレコード型のパンフは2,000円でした。音楽系の映画は高い傾向にあります。
ながせ:最近は1,000円超えの作品が増えている気がします。先日買った『偶然と想像』は1,200円でした。デザインが凝っていて素晴らしいですが、『ヴィム・ヴェンダース レトロスペクティブ ROAD MOVIES/夢の涯てまでも』も1,500円でした。ほしいと思う作品のパンフが高めなのかもしれませんが、値段が上がっている印象ですね。
小島:1月14日に公開された『クライ・マッチョ』、『ハウス・オブ・グッチ』など主要な作品は全て800円台でした。大勢の人が見に行く作品は価格が抑えられていて、マーベルなどのコアなファンを狙う作品のパンフは力を入れて作られている気がします。
今井:平均価格は以前より上がっている気がしますね。
清水:ランキングも上位の作品は一番安くて900円なので、皆さんがいいと思った作品は高めなのかもしれません。なるべく観賞した作品のパンフは買うようにしていますが、800〜900円でペラペラのパンフだと正直ガッカリすることはあります。
パ:文庫本や新書も買える価格ですからね。無料で配布されていたものを除くと、昨年はTOCANA配給『屋敷女 ノーカット完全版』のパンフが600円と一番安かったです。それが印象に残ったので、ベストパンフの一冊に選んでいます。
小島:同じ配給の『人肉村』も同じ価格でした。
パ:特別版の話に戻ると、『エターナルズ』や『ゴジラvsコング』は特別版がありましたが、ランキングにあまり入っていませんでした。『マトリックス レザレクションズ』の特別版は投票で選ばれてます。
浦田:『マトリックス レザレクションズ』は年末の公開だったので、公開時期が違えば、もっと選ばれてたかもしれませんね。
パ:特別版パンフで『MINAMATA』はサントラCD付きがあると知って、映画館に行ったのですが、一部の劇場でしか販売されておらず、残念でした。
小島:『MINAMATA』は日本が舞台ですが、セルビアでロケが行われた作品でしたね。
(つづく)