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【37th TIFFレポート21】『スウェーデン・テレビ放送に見るイスラエル・パレスチナ 1958-1989』報道映像で構成されたドキュメンタリー

文=パンフマン

第37回東京国際映画祭のジャパン・プレミアで『スウェーデン・テレビ放送に見るイスラエル・パレスチナ 1958-1989』を観た。タイトル同様、上映時間も206分と大変長いドキュメンタリーだ。イスラエル=パレスチナ問題に関わる映像が時系列に沿って、編集されている。イスラエル建国直後からベルリンの壁崩壊の1989年、そしてイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間で1993年に交わされたオスロ合意までをたどる。

スウェーデンの国営テレビ局SVTが所蔵する映像素材の中から選ばれて編集されている。このような過去のアーカイブを利用して、製作された映画には『プリンセス・ダイアナ』(2022)が近年では記憶に新しい。ただし、『プリンセス・ダイアナ』ではダイアナ妃の訃報をテレビで偶然知った一般人のホームビデオもフッテージとして、使用されていたので、本作はテレビ局所有の純度100%のニュース映像で構成されていると言える。

スウェーデンの国営テレビ局SVTが「世界的にも最も包括的なアーカイブを有していると言われる」所以ははっきりとはわからないが、少なくとも中立主義を表明してきたスウェーデンの国営放送で流れた映像ならばどちらかの立場に寄らない公平性は担保されているように思う。監督のヨーラン・ヒューゴ・オルソンは2011年に『ブラックパワーミックステープ~アメリカの光と影~』を67年から75年までの米国黒人の権利運動の映像をスウェーデンの放送局が所有する素材を使って作り上げている。日本国内のテレビ局により製作されているドキュメンタリー映画でも、局内にはこんなに過去の映像が眠っていると知り、驚いたと言う監督もいるなど、今後も映像素材を活用できる方法がたくさんありそうだ。

一貫しているのが市井の人々が語る声を聞いている点だろう。イスラエル=パレスチナ問題を教科書的に歴史の流れを追っていくだけでは見えてこない歴史の一面が浮かび上がってくる。丁寧な取材の数々が今日まで続いている紛争の根源を観客に考えさせている。なお、テレビ映像だから家で配信策として見ても良いのではという意見もあるかもしれないが、音楽が追加され、劇場用の音響に設計されている。

作品情報

原題:Israel Palestine on Swedish TV 1958-1989[Israel Palestina på svensk tv 1958-1989]
監督/脚本:ヨーラン・ヒューゴ・オルソン
編集: ブリッタ・ノレル
音楽:ゲイリー・ニルソン
音響:ミッケ・ニストロム
予告編はこちら
206分/カラー&モノクロ/英語、ヘブライ語、アラビア語/2024年/スウェーデン/フィンランド/デンマーク

妄想パンフ

何年にはどのような映像が使われていたかを全て掲載し、映画を追体験できる内容。A4判。

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