文=パンフマン
第37回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門「メキシコの巨匠 アルトゥーロ・リプステイン特集」で『嘆きの通り』を観た。これまで日本ではほとんど紹介されてこなかったアルトゥーロ・リプステインの数ある傑作の中から、近年レストアされた作品を中心に、5作品を上映する特集で、その内で最も新しい2015年に製作された作品がこの『嘆きの通り』だ。
「ルイス・ブニュエルの正統な継承者とも言えるグロテスクでシュールな題材、そして独特のユーモアにあふれた作品群です」と紹介されているし、リプステインがブニュエルの助監督を努めていたという事実があるからというわけでは必ずしもないのだけど、ルイス・ブニュエル監督『忘れられた人々』(1950)をどうしても連想してしまった。
『忘れられた人々』はモノクロでメキシコのスラムに生きる少年たちがメインで、『嘆きの通り』ではふたりの娼婦、双子の小人プロレスのレスラーとその家族たちと登場人物の属性には違いはあるものの、本作では町で発生している殺人、売春、ドラッグといった犯罪の描写が続き、救いのない物語は近いものを感じる。
作品の舞台も過去というわけではなく、製作年と同じ2015年あたりというのが、現代のガジェットが出てくることから、読み取れるのだけど、『忘れられた人々』から65年経っても描かれるのが、変わらず貧困の状況に陥った人々というのが、酷いものは酷いままで無残で特に美化されることなく、そのまま時代から取り残されてしまっているような内容だ。
ところで、娼婦たちは試合に勝ったばかりのレスラーたちの稼ぎを盗むために薬を使い眠らせるが、目薬が使われていたところが、新鮮ではあった。
作品情報
原題:Bleak Street[La calle de la amargura]
監督/プロデューサー/編集:アルトゥーロ・リプスタイン
脚本:パス・アリシア・ガルシアディエゴ
プロデューサー:ウォルター・ナバス
撮影監督:アレハンドロ・カントゥ
編集:カルロス・プエンテ
音響:アントニオ・ディエゴ
音響:ミゲル・モリーナ
キャスト
アルベルト・エストレージャ
シルビア・パスケル
アルセリア・ラミレス
パトリシア・レジェス・スピンドラ
100分/モノクロ/スペイン語/2015年/メキシコ
妄想パンフ
アルトゥーロ・リプスタイン作品を網羅した本みたいなのはいかがでしょうか。