文=パンフマン
人気闘牛士たちの日常生活を追ったドキュメンタリー『孤独の午後』を第37回東京国際映画祭で観た。ワールドフォーカス部門の「第21回ラテンビート映画祭」で特別企画として上映された一本だ。
今年はドキュメンタリー映画の巨匠、御年94歳になるフレデリック・ワイズマン監督の最新作『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』が公開され、今年11月のアメリカ合衆国大統領選挙を見据え、<変容するアメリカ>と題された彼の過去作品が特集上映されるなどで、劇場に駆けつけたりしていたため、ワイズマン一色になっていた私は「人気闘牛士たちの日常生活を追ったドキュメンタリー」と聞いて、闘牛の舞台裏にある様々なシステムや組織の構造を捉えていく…と勝手に想像していたのだけど、監督はアルベルト・セラ、闘牛に関する説明がなく、ナレーションがない点は共通しているものの、ワイズマン的な視点とは違う作品に仕上がっていた。
若きペルー出身の闘牛士アンドレス・ロカ・レイに焦点を当てながら、闘牛場での戦いの前後の様子を写していく。闘牛はスペインの国技で伝統芸能であり、神聖な儀式のような趣きもあり、舞台の裏側をここまで見せても良いのかとも思うシーンがいくつも見られた。例えば、驚いたシーンの一つに、衣装を一人で着られず、スタッフに手伝ってもらっていた場面があった。もちろん闘牛自体も一人で成立しているわけではなく、決まった順番で闘牛士たちが登場し、槍や短剣を刺して牛を興奮状態にした後に、赤マントを使ってさらに興奮させ、最後に位の高いマタドールがトドメを刺すというのが一連の流れがあり、観客がいてこそ完成している。さらに牛の種類や性格によっても、対応の仕方が変わってくるらしい。
試合を終えた後には闘牛士らがリムジンと思しき車に乗り込み、そこでは車の外から声援をファンの姿も見られるのだが、狭苦しい車内で闘牛士たちの間で交わされる会話が興味深い。「日常生活を追った」というより、繰り返し繰り返し闘牛と向き合う日常を疑似体験させてくれる作品だ。闘牛シーンはひたすら寄りで撮られ、これも息苦しく感じる。そこに死んでいく牛のシーンのアップが映し出される。主人公レイと周囲の闘牛士との会話もぎこちなかったり、表情も終始重苦しいのも印象に残る。
スペインにも女性闘牛士も数は少ないがいるらしいが、登場人物は男性しか映らなかった。余談だが、中国映画『怒りの河』でも屠牛が描かれていた。
作品情報
原題:Afternoons of Solitude[Tardes de soledad]
監督/プロデューサー/編集:アルベール・セラ
プロデューサー/エグゼクティブ・プロデューサー:モンセ・トリオラ
プロデューサー:ルイス・フェロン
プロデューサー:ペドロ・パラシオス
プロデューサー:リカルド・サレス
プロデューサー:ピエール=オリビエ・バルデ
プロデューサー:ジョアキン・サピーニョ
撮影監督/編集:アルトゥール・トルト
音響:ジョルディ・リバス
音響:サミュエル・ミッテルマン
音響:ブルーノ・タリエール
キャスト:アンドレス・ロカ・レイ/アントニオ・グティエレス/フランシスコ・ドゥラン
125分/カラー/スペイン語/2024年/スペイン/フランス/ポルトガル
妄想パンフ
闘牛の歴史、始まりから終わりまで一連の流れ、闘牛場マップ、スペインと南米の闘牛の違い、闘牛士の等級、闘牛士の一日過ごし方を改めて紙面で。日本人闘牛士や女性闘牛士が見た闘牛の世界インタビューなど。