文＝屋代忠重
ビター・クリークを隔てる砂漠を馬に乗って渡る男。彼は昔の友人を訪ねる途中、そこで保安官をしているジェイクのもとを訪れようとしていた。シルバとジェイクはかつて雇われガンマンとして一緒に仕事をしていた。実に25年ぶりの再会だったが、昔の関係に戻るのにそう時間はかからない。夕食では実にさまざまな理由をつくっては、何度も乾杯する二人から、久しぶりの再会を心から喜んでいることがみてとれる。ベッドで昔のように身体を重ね愛し合う二人。しかし翌朝、ジェイクはシルバが自分のもとを訪れたのには別の理由があるのでは？と語りだす。
銃の腕を頼りに雇われガンマンから保安官にまでのし上がったジェイクと、牧場を経営して家族をもち、穏やかな暮らしを望んだシルバ。互いに愛し合いながらも25年前に別れた二人の人生は、シルバの息子をめぐって皮肉なかたちで再び交差する。かつて愛し合った若かりし日々を回想しながら、徐々に避けられない対決へと向かっていく。
31分という瞬きしている間に終わってしまうような短い時間の中で、これだけ濃密な男たちの苦悩と愛憎の物語を西部劇に詰め込んだペドロ・アルモドバル監督の手腕はさすがの一言。殺し屋でもあった過去と決別するべく、保安官としての職務を全うしようとするジェイクと、息子を守るために愛する男に銃口を向けるシルバ。25年前のあまりにも無垢でまばゆい表情と、現在の使命感と愛情の間で揺れ動く男たちのギャップを、イーサン・ホークとペドロ・パスカルが見事に演じている。そして本作はイヴ・サンローランが本格的に映画衣装に参入した記念すべき1作目でもある。バチバチにキマッたイーサン・ホークとペドロ・パスカルの姿も楽しんで欲しい。このマスキュリアンな世界で生き抜いてきた二人の男のその後が非常に気になるので、これを機に是非とも本作の長編制作をお願いしたい。
36thTIFF 2023/10/27
作品情報
監督：ペドロ・アルモドバル
キャスト：イーサン・ホーク/ペドロ・パスカル/ペドロ・カサブランク
31分/カラー/英語/2023年/スペイン・フランス
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妄想パンフ
B5ヨコ。表紙には若かりし日の二人が使っていた銃が重なり合う。
保安官の仕事を解説するコラムや、監督インタビューで長編にした際の構想などを聞いてみたい。
