映画パンフは宇宙だ!

MAGAZINE

【TIFF5日目レポート4】因習がはびこる社会の行く末は『山女』

文=鈴木隆子

河童や天狗、座敷童子や神隠しなど、特に日本で暮らしていればテレビや映画、本などで誰もが一度は見聞きする、昔から脈々と伝わる逸話や伝承。これらを記した説話集、柳田国男著の日本民俗学の古典「遠野物語」からインスパイアを受けたという『山女』は、『リベリアの白い血』(2015)、『アイヌモシリ』(2020)と、過去の二作品がいずれも国内外で高い評価を得ている福永壮志監督の第三作目となる長編作品だ。

時は18世紀後半。東北のある村は、長きにわたる冷害により困窮し、口減らし(経済上の理由から、養うべき人数を減らすこと)が行われるほどの状態に陥っていた。お婆の占いによると天候の回復の見通しは立たない。先が見えない不安に押しつぶされそうになっている村人たちは次第に、曽祖父が過去に犯した罪を未だに背負わされている伊兵衛(永瀬正敏)の一家に対して、苛立ちや不安の矛先を向けるようになる。
一家は村では誰もやりたがらない「汚れ仕事」をこなすしかなく、自分たちの立場を理解している娘の凛(山田杏奈)は既に人生を諦めている様子。それでも弟と支え合い、盗人の女神様が宿ると言われる早池峰はやちね山を拝みながら、なんとか歯を食いしばって生きていた。父親がある事件を起こすまでは。

民話から要素を取り入れながら新たに創造されたこの物語は、日本に根強く残る家父長制や男尊女卑等の因習を浮かび上がらせ、観る者に「今も同じことをしていないか?」と問いかけてくる。それに、弱い立場にいる個人を集団で攻撃する村人たちの姿には既視感しかない。そこから200年以上経っている現代でも、人間はSNSなどのデジタルの領域にも範囲を広げて同じことをし続けているのだ。とくに窮地に追い込まれた人間は判断力を失い、集団心理によって恐ろしい行動に出ることがある。今まで自分はそれらに全く加担したことがないかと問われたら、自信をもって返事はできない。いつ何時でも、物事の善悪を見定める目を持たなければと、村人たちが反面教師になった。

果たして、この村の行く末はどうなるのか。本当に山の神様が見てくれているのなら、それは想像に容易いだろう。

35thTIFF 2022/10/29

作品情報

監督:福永壮志
キャスト:山田杏奈、森山未來、永瀬正敏
100分/カラー/日本語/英語字幕/2022年/日本、アメリカ/アニモプロデュース
予告編はこちら

妄想パンフ

B5サイズ、横の判型。
主人公の凛が、唯一人間らしく生きられたという山の中の風景をバックに、タイトル『山女』を縦に配置(文字色は白)。
福永壮志監督がインスパイアされたという「遠野物語」の代表作を紹介するページをつくりたい。

Share!SNSでシェア

一覧にもどる