映画パンフは宇宙だ!(PATU)のメンバーで、今年上半期の映画パンフについて語り合う座談会を開催しました!
前編はこちら
【コンテンツが充実してたパンフは?のつづき】
鈴木:『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は自分はシリーズに詳しくないので、過去作を振り返るようにまとめてあり、助かりました。次にこれを観ようかなと思える作りでした。
小島:バットマン初心者でも気軽に楽しめるような作りでした。今回はロバート・パティンソン版で新たに仕切り直し、気持ちをフレッシュにして観られるけど、他のコミックや作品が気になる人にも誘導されるようになってました。
machi:表紙のマットな質感も良かったです。
鈴木:『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の通常版もこの紙質でした。
小島:触りたくなる、しっとりした紙質です。他に『チェリまほ THE MOVIE』は表紙に俳優さんの写真ではなくイラストが使われてて衝撃的でした。イメージ画の表紙は珍しいですよね。
あずさ:赤楚衛二さんと劇団EXILEの町田啓太さん出演で、パンフの表紙は映画を観た後だと分かりますが、劇中に出てくる本の表紙が使われていました。表紙に俳優さんの顔の写真を使ってないところに真摯な心意気を感じました。
小島:表紙に俳優さんの写真を載せると売れるはずなのに。
今井:ドラマの映画化ですが、かなり思い切った決断ですよね。
あずさ:ファン目線で作られていると思いました。
小島:パンフではテレビドラマのエピソードもフォローされていました。
あずさ:原作者の方のインタビューや制作の裏側、どういう風に映画化されたか書かれていて、短期間でドラマと漫画を鑑賞して劇場に行きましたが、観て良かったという気持ちを補強してくれる良いパンフでした。
小島:『ニトラム』は「資料編」「応答編」に分かれていて、前後から読ませる作りでした。賛否両論の映画で、これを映画化するのはどうなんだという反発も起こったみたいです。
パ:タスマニアではこの事件の話をするのがタブーだったり、オーストラリアからは補助金も出なかったとか。同じく4月に紹介している『英雄の証明』のパンフ、表紙の白地にタイトルというのは『前科者』『香川1区』『帆花』などでも見られました。
今井:最近の流行かもですね。
machi:『流浪の月』も白地にタイトルの表紙です。ロゴは専用にデザインされたという感じです。このパンフにある島本理生さんのコラムが素晴らしくて、恋愛小説を書かれる方なので観客層とは合っていますし、作家さんの文章は一味違うと感じました。
鈴木:『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は劇中で紹介される111本の作品リストが載っていて、後で見返すのに便利です。映画自体も面白いですよ。知らない作品も沢山出てきますが、劇中で作品の一部を観て、「全編を観てみたい」となる作品がいっぱいできます。ディズニーなどの著作権が厳しそうなものも作品の映像を使って紹介されていて、その点でもすごいなと。
今井:書籍だとありそうな企画ですが、映画で成立させているのはすごいですね。
鈴木:『ロスバンド』もノルウェーの情報やインタビューも載っていて、ちゃんとポイントが抑えられていましたね。映画も面白かったです。
小島:『ロスバンド』は映画の世界観にも通じていましたよね。世界観だと『TITANE/チタン』が真っ先に思い浮かびますが、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』も写真の配置が上下逆さまとか縦横バラバラでぐるぐる回して読むとかで、デザインが凝ってるわけではないのですが、面白い試みだと思いました。
今井:確か『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』(2000)が同じような感じでした。
パ:「ケイゾク」脚本の西荻弓絵さんは、最近では『映画 妖怪シェアハウス』でシナリオを書かれています。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』特別版は裏表紙の絵柄が4種あって、ヴィジュアルカードも2枚8パターンがランダムに付く仕様で全部集めたくなるファン心をくすぐるもので、拝金主義の感じがしましたが、様々な世界が存在するという風に捉えるとマルチバース的にはアリかなと思い直しました。
鈴木:『アネット』は書籍コード付きで発行がユーロスペースさん。まだ全部読めてませんが、内容が詰まってて充実したパンフです。対して『アネット』の音楽を担当したバンドのドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』のパンフはシンプルな内容でした。
今井:音楽映画は『ZAPPA』『ダイナソーJr. フリークシーン』とかもありましたが……音楽映画のパンフって、簡素な作りでも何かパッションがあって好きなんです(笑)
パ:その2冊は同じデザイナーの方ですね。
今井:岡崎恭子さんです。ともにキングレコードの発行・編集。
小島:音楽ドキュメンタリーだと『a-ha THE MOVIE』のパンフはいかがでした?
パ:「Take On Me」が流れる映画リストが載ってるページがあって、意外な作品にも使われてて興味深かったです。2022年上半期には『ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ』『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』などの音楽ドキュメンタリーが公開されて、どれもパンフが発売されていました。『リンダ・ロンシュタット&スージーQ&ローレル・キャニオン』は3作合本という形式です。『ニューオーダー』はバンドの映画ではなかったです。
小島:『ザ・ロストシティ』はパンフありましたか?
パ:ありました。同日公開の『ベイビー・ブローカー』も。
今井:ロードムービーなので、マップが載っているのが良い、しかも冒頭に載っているのがポイント高いです。表紙は布地風の紙に白インクで印刷の落ち着いた作り、デザインはMARC(マルク)さんですね。
複数のデザイナーさんが所属されていますが、かつて『裏切りのサーカス』のポスター、ロゴも手掛けられていました。
【良い映画パンフとは?】
machi:あと『大怪獣のあとしまつ』のパンフは良かった!
屋代:パンフ「は」良かったです(笑)
パ:映画とパンフの関係を単純に4つに分けると
①「映画もパンフも良い◎」
②「映画は×だけどパンフは◎」
③「映画は◎だけどパンフは×」
④「映画もパンフも×」ですが、皆さんどのパターンが多いんですかね。
鈴木:『ベルファスト』は映画は良かったけど、パンフは必要最低限な情報という印象でした。
小島:もう少し凝った作りにもできたのではと正直思いました。
鈴木:『ハウス・オブ・グッチ』も内容は必要最低限という感じで……期待していたのですが。
今井:さりげなく表紙のロゴが厚盛印刷で浮いていますね。内容はGUCCI関連の情報をもう少し掘り下げてほしかった感があります。
小島:判型は好きでした。パンフより、宣伝用プレスのほうが良かった気もしました。
パ:パンフ紹介記事を続けてわかったのは特徴が捉えられなくて、正直書くのが難しい作品もありました。映画とパンフの関係で言うと◎と×の二元論じゃ割り切れないですね。デザインとか内容とか、どの部分を評価するかは人によって違いますし。ただ、私の場合①「映画もパンフも良い◎」が全体の9割くらいを占めてます!
【パンフレットの価格について】
machi:上半期で価格が一番高かったのは何ですか?
パ:たぶん『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』数量限定版の4,400円ですかね。
machi:『ウエスト・サイド・ストーリー』より高いですね!
小島:ファンの方は買われますよね。
machi:逆に一番低価格なのは?
小島:編集を映画パンフは宇宙だ!で編集させていただいた。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』は500円でした。
パ:昨年、担当させていただきました。今年だと映画配給レーベル エクストリームさんのシリーズでしょうか。上半期だけで『シークレット・マツシタ 怨霊屋敷』『ハングリー 湖畔の謝肉祭』『真・事故物件 本当に怖い住民たち』『KKKをぶっ飛ばせ!』『クリーチャーズ 宇宙から来た食人族』の5作品があって、いずれも600円でした。
屋代:A4サイズを贅沢に使われているシリーズです。
小島:Twitterスペースで配給会社さんが話されるのを聞いたのですが、「公開作品のパンフレットは作るようにしている!」とおっしゃっていましたので、その心意気は応援したいです。
パ:パンフ文化を継承されています。ありがたいことです。公式サイトでも一部購入できますね。
小島:7月22日から公開『セルビアン・フィルム』ではこれまでとは少し違った作りのパンフをされるらしいです。
パ:期待大です!そういえば2009年の『アバター』を見返したら600円で驚きました。今だったらこの価格は無理でしょう。
鈴木:特殊な装丁の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2002年日本公開)『かもめ食堂』(2006年公開)なども600円でしたね。
パ:今だったら倍くらいの価格かも。
小島:今は、ノーマルな形で880円が主流でしょうか。
鈴木:700円だと安いなと感じます。映画会社ムヴィオラさんのパンフレットは基本700円で、クオリティが高いです!
屋代:『インフル病みのペドロフ家』の中身も難解な作品でしたが、しっかり解説もインタビューも載ってて目茶苦茶充実してました。
パ:『金の糸』『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』も700円で通販サイトで購入できますね。
machi:脚本が掲載されていると1,000円を超えてしまうものが多いですが、不要な人にとっては値段が上がるだけなので、もしかしたら安いほうが良いと思われてたりしますか?
鈴木:資料としては貴重ですが、皆さん読まれるかというと……。
小島:昔は配信もなく、ソフト化も遅かったので、それなりに脚本の意味はありましたよね。
machi:A24は脚本だけで冊子を作っているので、一冊の本にするのもありなのかな。
鈴木:月刊シナリオという冊子がありますが、載っている作品とそうでないのはもちろんあります。映画のファンの中で求められていて、興味があるものの一つかもしれません。
machi:パンフで初めて脚本に触れる人もいると思います。
鈴木:他では読む機会がないですし。
パ:時々は載ってても良いですかね。書き方の勉強にもなります。最近ではドキュメンタリー映画でも脚本が掲載されているものもある。
鈴木:劇映画っぽいドキュメンタリーもありますよね。
パ:ドキュメンタリー映画では『白骨街道 ACT1』が上映時間16分にも関わらず32ページものパンフを作っていただいてました。以前『香港画』(2020)が28分でもパンフがありましたが、上映時間ではそれを超える短さです。
【下半期楽しみなパンフ】
パ:映画も大ヒットして、パンフの売り切れも続出した『トップガン マーヴェリック』ですが、1986年に公開された1作目のパンフがメルカリとかで高騰していました。今回の続編に備えて、前作を観るのはわかるのですが、それだけでは満足できなくて、パンフも手に入れて、触れてみたいと思った人も少なくない一定数いたんですね。この現象は興味深いと思いました。
今井:当時の上映した時の空気感を知りたかったのかもしれませんね。そう思わせるような作品ですし。
パ:似た現象で、去年は『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開後、クレイグボンドの過去作『007 スペクター』『007 スカイフォール』『007/慰めの報酬』『007/カジノ・ロワイヤル』のパンフが探されていました。集大成的な意味合いもありましたが。
『トップガン マーヴェリック』のパンフはプロダクションノート1本の硬派な作りでした。この作りは近年のトム・クルーズ主演映画では『オブリビオン』『MIGP』とかもそうだったかも。
今井:あそこまでのS級作品は、事前情報がなかなか出ないか監修が厳しいかで、独自の企画記事をやるための下拵えが難しいのではないかと推察します。ちなみに普段パンフに載っているプロダクションノートは海外の権利元から送られてくる膨大な情報の中のごく一部だったりします。紙幅の都合で全て丸っと載せるわけにもいかないので、どこを抽出するかが編集の腕の見せどころです。瑣末な情報も結構あったり、キャストのコメントで社交辞令的なものが延々と続いていたりもして。その中から抜粋して載せるのが一般的です。
鈴木:プロダクションノートってそういえば誰が書いてるんですか?監督が書いたものを編集する感じなのでしょうか。
今井:洋画メジャーの場合は、現地のライターが各所取材して客観視点で一本にまとめた資料が大抵あって、写真等の素材と合わせて渡されるんですよね。
パ:PATUのトークイベントでも質問されている方がいましたし、やっぱりプロダクションノートは気になりますよね。
今井:邦画の場合も通常は宣伝の一環として現場をライターが取材して作ります。ただそれも体制によってあったりなかったりするので、パンフのために後から作ったりもしますね。現場にいた助監督の方やプロデューサーに原稿をお願いする場合もあります。
パ:7月29日をもって岩波ホールが閉館してしまいますが、これの出来事は一つの映画館がなくなるだけでなく、これまで岩波ホールで作られていたパンフも同時に喪失してしまうことも意味します。ただ過去のパンフは、日比谷の図書館で閲覧できるようになるそうです。
https://twitter.com/pamphman/status/1525817454663913473
小島:同じ千代田区の図書館ですね。
パ:下半期、楽しみなパンフレットはありますか。
鈴木:8月26日公開に公開を控えている『彼女のいない部屋』は石井勇一さんがビジュアルデザインを手掛けられるので、パンフレットも楽しみです!
小島:昨年、東京国際映画祭で上映されたウド・キア主演『スワンソング』が8月26日に公開されるので楽しみです。
鈴木:最高な作品でした。
machi:『耳をすませば』の実写版も気になってます。
パ:7月以降も楽しみですね!
(おわり)