文=やしろ 妄想パンフイラスト=ロッカ
「帰らざる日々のために/いずみたくシンガーズ」から拝借するならば、愛する人がいれば、求めるものがあれば、何も怖くないのです。そいつが青春と言うものです。しかし主人公のシルヴィアにはそれがないのです。
ポーランドの人気フィットネスインストラクターで、SNSフォロワー60万人を誇る彼女は本当の自分とのギャップに苦しみます。
SNSでさらけ出す自分は虚像に過ぎない。イベントでみんなを盛り上げる自分に疲れてしまう。隣に愛する人がいて欲しい。それでも今日も動画をアップするわ。愛するファンの為に。
トレーニングを終えて鏡に向かえば、スマホを向けて「愛するみんな!私はトレーニングを終えたところよ?」と微笑み語りかけます。さっきまでの笑顔の自分が映る動画を無表情で見つめるシルヴィア。孤独に苦しんでも決して”you talkin’ to me?”なんて言わないのです。
しかし、そんな彼女が以前にアップしたある動画をきっかけに、非常に不安定な物語へと放り出されます。ストーカーのリシェク、母親とそのボーイフレンド、学生時代の友人。みんなが何かに恵まれ、何かが欠けていて…。
正直、僕には社会的、経済的に成功している彼女の苦悩と言うのはあまり共感できないのですが、前出の人物達とのやり取りが、そんな共感しにくい彼女の孤独と苦悩を多角的に映し出していき、やがてシンパサイズされていきます。
それにつれ物語はどんどん流転していき、思いもよらぬ事態へ発展していきます。
この映画は果たして彼女を、我々をどこに連れて行くのか?
果たしてシルヴィアに愛する人は現れるのか?求めるものが手に入るのか?
彼女は孤独を乗り越えることができるのでしょうか?
それは最後の彼女の表情を見れば分かるでしょう。
しかし、監督のマグヌス・フォン・ホーンはそこに意地悪な棘を刺します。
「卒業」でダスティン・ホフマンとキャサリン・ロスが最後に見せた様な棘を…。
妄想パンフ
劇中に登場するシルヴィアが表紙のフィットネス本風。中身は彼女のイメージカラーのピンクと白で。
作品情報
『sweat』(原題:同)
予告編はこちらから
監督:マグヌス・フォン・ホーン
キャスト:マグダレナ・コレシニク、ユリアン・シュフィエジェフスキ、アレクサンドラ・コニエチュナ
106分/カラー/ポーランド語/英語日本語字幕/2020年/ポーランド・スウェーデン