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【37th TIFFレポート19】『ダホメ』美術品は語りかける

文=パンフマン

第37回東京国際映画祭で『ダホメ』を観た。ワールド・フォーカス部門でエシカル・フィルム賞ノミネート作品として上映されていた。

内容は1900年にフランスに征服されるまで、現在の西アフリカ・ベナン共和国の地に存在したダホメ王国からフランスが略奪した美術品7000点以上のうち26点が2021年11月にベナンへ返還された過程を追いながら、この返還をどう受けとめるかについて、ベナンのアボメイ・カラヴィ大学の学生たちが議論する姿を映したドキュメンタリー。ベルリン映画祭コンペティションで上映され、最高賞の金熊賞を受賞している。

前半では美術品が母国に返されるまでに梱包され、飛行機で輸送されていく様子が作業する人々と共に丁寧に映し出されている。後半からは学生のディスカッションの様子という構成になっている。
議論の初めのほうで、「ディズニー」や「トムとジェリー」作品を見て育った自分はそもそもこのような美術品のことは知らなかったと述べる学生が登場する。その後も次から次へと学生たちが自分の考えを述べていく。自国の歴史を学ぶ上で子どもたちに見せるために展示するべきだという教育面からの意見や博物館そのものの形態が西洋側の視点にあるのではないかいった指摘、とある都市に展示すると宗教的側面が強くなってしまうのではという懸念、保管・保存は可能なのかという経済的な観点など様々な角度からディベートが進んでいく。

近年はアフリカ大陸から植民地支配を機にヨーロッパ諸国へ持ち去られた美術品が返還される流れが目立っている。背景には「ブラック・ライヴズ・マター運動」もあるという。議論の中でも言及されるフランスのマクロン大統領による決定はアフリカ諸国との関係性を見据えた政治的な理由だったり、中国がアフリカで美術館を建設していることに対する地政学的な事情もあるのだろう。美術品返還を巡る議論は当然正当な手続きで返還すべきとする意見もある一方、例えばUNESCOが国際的に管理すべきという案も出ていたり、多岐にわたるようで、とても考えさせられる。

本作には返還された一つの美術品が語りかける演出が施されている。続編が作られるならまだしも、二度と同じ仕掛けはやりにくそうだし、この部分は賛否が分かれそうだ。会場の有楽町よみうりホールの座席は8〜9割ほど埋まる盛況ぶりであったが、「擬人化された彫刻が一体何を話すのか」気になった来場者が何パーセントかいたとすれば、作品やテーマに関心をいただくきっかけの一つとして、この演出がいくばくか寄与したと言っても良いのではないだろうか。

作品情報

原題:Dahomey
監督/脚本/プロデューサー/キャスティング:マティ・ディオップ
プロデューサー:ジュディット・ルー・レヴィ
プロデューサー:イヴ・ロバン
作曲:ウォリー・バダルウ
作曲:ディーン・ブラント
撮影監督:ジョゼフィーヌ・ドゥルイン=ヴィヤラール
編集:ガブリエル・ゴンザレス

68分/カラー/英語、フランス語、フォン語/2024年/ベナン/セネガル/フランス

妄想パンフ

ベナン、ダホメ王国の歴史解説、返還された美術品を写真付きで紹介。劇中でディスカッションに参加していた学生のインタビューなど。

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