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【37th TIFFレポート17】『怒りの河』怒りがないと河を渡れないのか

文=パンフマン

第37回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門で『怒りの河』を観た。国境を接する中国・雲南省とミャンマーが舞台となるドラマ。

雲南省に暮らす父親が、出稼ぎに行っている間に娘が自殺したことを知る。学校内でのいじめが娘の自殺の原因だったことを知らされ、そのいじめの中心となっていたと思われる少女ジー・ホンを探し、娘に何があったかを問い詰めようとする。しかし、彼女は国境を越えてミャンマーに逃走していた。そこで、父は彼女の行方を追ってミャンマーに乗り込んでいくというストーリー。娘の死の真相を明らかにするために国境を越えた男による復讐物かと思っていたが、物語はそう単純には進まない。

中国とミャンマーの国境付近ではミャンマー国軍と少数民族武装勢力との戦闘が続き、中国側も安定に努めるなど非常に緊迫した地域であり、この辺の情勢に興味を持ったきっかけは探検家でノンフィクション作家である高野秀行さんの本だった。その本では出国スタンプ無しで中国を出国し、正式な国境検問所を一切通らずにミャンマー北部のゲリラ支配域を横断して、インドまで進むが、これに匹敵するような壮大なスケールで展開していく。

中国とミャンマーを隔てる国境には怒江という川が流れており、これは作品のタイトルにもなっている。この川の対岸に架けられたワイヤーロープにベルトとハーネスを装着してぶら下がるジップラインを利用して、越境する。監督によるとこのアトラクションは今は観光用として残っているらしい。それ以前は自由に行き来できた時代があったとも語っていた。それ故にミャンマーに渡り、犯罪に手を染める中国系の人物も登場する。この映画自体も実在の人物に着想を得たとのこと。

とても力強い作品で、細かい部分は気にせず多少強引な部分も目に付くが、生きる力を与えてくれるところが本作の魅力だ。とある場面で盛り込まれている柑橘系の果物が転がる演出には久しぶりに見たかもと妙な感動を覚えた。
本国版ポスターが何パターンかあって、このデザインにも注目したい。本作を見た後では印象が大きく変わってしまうだろう。

作品情報

原題:A River Without Tears[怒江]
監督/脚本:リウ・ジュエン
キャスト:ワン・イェンフイ/ダン・エンシー/ヤン・ハオユー/ワン・チャン/リュー・シンチェン
スタッフ
撮影監督:イン・ジエ
編集:ジュー・リン
美術:リー・ヤーディン
音響:リー・ダンフォン
音楽:クリス・バビダ
エグゼクティブ・プロデューサー:ジャ・ジャンクー
プロデューサー:ジャン・ハオ
プロデューサー:ジャオ・ジン
109分/カラー/北京語/2024年/中国
予告編はこちら

妄想パンフ

中国とミャンマー国境での衝突、雲南省での屠牛行事、若者たちで広がる流行など作品の背後にあるテーマを解説。中国版ポスターも複数パターンを掲載。読みやすいB5。

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