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【37th TIFFレポート16】『昼のアポロン 夜のアテネ』地中海沿岸も心霊写真は撮られる

文=パンフマン

第37回東京国際映画祭で『昼のアポロン 夜のアテネ』を観た。「アジアの未来」部門で上映されていた一本である。紹介文から想像できる内容とは全く異なっていたが、味わい深い作品だった。

バスに揺られている女性。背後の座席から唐突に男性が話しかける。このダフネという名の女性は会ったことがない母を探しているようで、到着したシデという都市でチェックインした宿で彼女が孤児として育てられた背景が観客に知らされる。休暇を利用して、母を探し求めて長期の旅に出ているようだが、果たして母親に会えるのか、次々に現れる謎の人物の正体は誰なのか特に説明もないまま進んでいき、実は彼女は特殊な能力を持っていると明らかになっていく。

主な舞台となっているトルコの都市シデは海辺にあり、古代ギリシャ時代の神殿や広場などが残っている観光地であり、ギリシャが舞台と勘違いしてしまいそうになるくらい、とても風光明媚な場所で、美しい風景が切り取られている。
何の説明もなく、現れた人物たちは誰なのかという実像も神話やトルコの社会的な歴史が紐解かれる中で判明していく。劇伴も大変印象的で、音楽担当のバルシュ・ディリは他にも多くのトルコ映画で映画音楽を手がけている人のようだ。作品が公開になればサウンドトラックも発売されるかもとか。

設定がわかりにくい部分があって、好き嫌いが分かれそうな作品だが、優しい映画で非常に好感を持った。監督エミネ・ユルドゥルムの経歴を読むと、映画テレビ制作の修士号を取得し、映画業界で20年のキャリアがあり、脚本家、プロデューサーとして数々の国内外の映画賞を受賞しており、さらに2020年以降、スタンダップコメディの舞台にも立っている人物らしい。そして、本作がデビュー作となるというが、思わぬ才能に出会えるのは映画祭としての醍醐味の一つだろう。ある監督を目当てに映画祭に行き、せっかくなのでと予定になかった映画を観て、思わぬ発見に至った経験は以前から何度もある。

「タイトル、あらすじを聞いて、後は予告編を見ればそれが良い映画かどうか判断できる」という暴論を耳にしたことがある。「映画は見なくとも面白いかどうかわかる」論争である。タイトルだけではどういう映画かはっきりと分からなくとも、あらすじを読めばストーリーの大筋はそれなりに掴めるし、予告編を見ればどのようなカメラワークで撮影されているかが見てとれるだろう。なので、ある程度は「想像がつく」のは間違いない部分もあるだろう。しかし、絶対は存在しないし、実際現在公開されているとある大作映画で観客は期待や想像を大いに裏切られているという声が上がっている事態も起こっている。

作品情報

原題:Apollon by Day Athena by Night[Gündüz Apollon Gece Athena]
監督/脚本:エミネ・ユルドゥルム
キャスト:エズギ・チェリキ/バルシュ・ギョネネン/セレン・ウチェル/ギゼム・ビルゲン/デニズ・テュルカリ/ラーレ・マンスル/ネイラ・カヤバシュ/メリヒ・デュゼンリ
スタッフ
プロデューサー:ディルデ・マハルリ
編集:セルダ・タシクン
音楽:バルシュ・ディリ
撮影監督:バルシュ・アイゲン
美術:エリフ・タシチュオウル
音響:メティン・ボズクルト
ファースト助監督:ジェムレ・ジャン・カラアフメトリ
112分/カラー/トルコ語/2024年/トルコ

妄想パンフ

舞台となる都市アンタルヤ、シデの紹介、ギリシャ神話のモチーフはどこに出ているか、トルコの歴史的背景などを劇中に登場する重要な本と同じ判型で。

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