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【TIFF5日目レポート3】幸福な余韻『ゴンドラ』

文=鈴木隆子

上映終了後、監督や俳優が登壇する回ではなかったのだがひとりでに拍手が起こり、劇場の外は「幸せな時間だったね」と笑顔で話している人たち(自分も含む)で溢れていた。上映中の観客の顔をスクリーンから眺めることができたら、みんな終始微笑んでいたであろうと想像した。

山間をつなぐ、住民の大事な足となっているゴンドラ。ゴンドラの駅の乗務員として出会ったふたりの女性は二台のゴンドラにそれぞれ乗車し、ゴンドラが稼働する中すれ違う一瞬のタイミングを重ねるたびに仲が深まっていく、女性同士の愛が描かれる。
駅に交互に到着するタイミングで乗降スペースに置いたチェスを進めたり、すれ違う一瞬でお互いをどうやって驚かせようかと思案し、コスプレ対決や果てはゴンドラ全体をデコレーションしてしまうなど、彼女たちはどんどんスキルアップしていく。また、ゴンドラの使い方の応用編(?)も披露されるので、そのアイデアに脱帽されたし。

2018年の東京国際映画祭で好評を博した『ブラ物語』が、後に『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』という邦題で日本公開されたファイト・ヘルマー監督の最新作である本作。前作と同様に東ヨーロッパのジョージアで撮影が行われたのだが、同性愛への反発や偏見がまだまだ残る地域のため、ふたりは親友同士とし、ロマンスが描かれるシーンは気をつけながらの撮影だったそうだ。

ゴンドラが動き始める音が繰り返し響くことによって、物語にリズムが生まれる。定期的に映る山間を二台のレトロなゴンドラが行き交う景色は、そのゴンドラの音と相まって癒やしの時間になる。

全編をとおしてセリフが無いからか、その分、音や景色、登場人物たちの表情や動きに自然と集中するので、物語が紡ぐ豊かな時間を、全身全霊で享受することができるのだ。
ごくたまに、「ずっと観ていられる」「終わってほしくない」と思う映画に出会えることがあるのだが、久しぶりにその感覚を得た。まだまだ、自分が知らない映画の世界があるのだと、嬉しくなる映画体験だった。

TIFF36th 2023/10/28

作品詳細

原題:Gondola
監督:ファイト・ヘルマー
キャスト:マチルデ・イルマン、ニニ・ソセリア
82分/カラー/セリフなし/字幕なし/2023年/ドイツ/ジョージア

妄想パンフ

劇中に登場するゴンドラ型に切り抜いた形のパンフレット。車体の色は赤とオレンジの2色があるので、裏表で色を変える。
本作で稼働しているゴンドラはソ連時代に作られたもので、どうして作られたのかは今となっては誰も知らないとのことなので、他にもあるであろう世界各地のゴンドラとその歴史を紐解く特集ページを作りたい。

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