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【TIFF2日目レポート4】『女性たちの中で』強くならざるをえない理由

文=鈴木隆子

昔々、女性は子どもを生むから痛みに強いと聞いたことがある。それに科学的根拠があるのか、いつの時代に誰が言い出したのかはわからない。女性は全員子どもを生むと決まっているわけではないが、生物学上、子どもを生むという機能が備わっている女性はずっと昔から今も現在進行形で、生理・妊娠・出産・更年期などの女性特有の健康問題や、それにまつわる諸問題にさらされている。私が思うに、女性は元から痛みに強いのではない。肉体的にも精神的にも自分自身を守るために、強くならざるをえないのだ。

1977年、バスク地方のエレンテリアという街では、中絶手術を行う権利を求める社会運動が行われていた。当時中絶は違法で、望まない妊娠をしてどうしても子どもをおろしたい場合は隠れて、かなり危ない方法で物理的に行う他なかった。もちろん母体にとっても危険で、感染症にかかってしまうこともあるのだが、中絶が原因の場合は医者が診るのを嫌がるので病院に行けないのだという。

フェミニストの団体に参画し、中絶をした女性たちが収監されたことに対する抗議運動に参加している16歳のベアは、母親と一緒にとある邸宅の家政婦として働き始め、そこでミレンという同年代の少女と出会う。ミレンは一日中部屋にこもり、ピアノの練習をしていたかと思えば激しく鍵盤を叩いたり、楽譜を床に撒き散らしたり、また別の日はベッドにうずくまり、泣きながらジントニックを作ってほしいなどと言う。その情緒不安定の理由は、妊娠をしていると後にわかることで合点がいった。出産するまで祖母の家に預けられ、産んだら子どもは知らない夫婦に引き取られるのだという。ベアが相手のことについて聞いてもミレンは多くを語らず、おそらく姿を消したか否認したか、いずれにせよ男性側が責任を取ることはないのだろう。

ミレンは自分の状況をどうすることもできず、生む選択しかないと思っていたのだが、ベアと知り合ったことにより、別の国に渡り中絶の手術を受ける手段を手にする。ベアはそれまでの間ミレンと交流を重ねていくうちに段々と惹かれていくのだが、ミレンが手術を受けたあとにはもうエレンテリアには戻らないと悟り、迫りくる別れに押しつぶされそうになりながらも、ミレンが無事手術を受け終わることができるよう側で支える。

望まない妊娠で心身ともに負担を強いられ、後の人生をも狂わされるのはいつも女性側だ。ミレンはピアノと歌の才能があるようで、もし妊娠しなければミュージシャンを目指して邁進しているところだったかもしれない。昨年日本公開された、1960年代のフランスを舞台にした映画『あのこと』では、主人公が未来を約束される学位を手にするための大切な試験の前に妊娠が発覚し、中絶が違法だった当時において、あらゆる解決策に一人で挑む姿が描かれた。

しかし、この物語の中で一番「痛み」に強くなっていた人は、ベアの母親なのではないかと思う。過去に浮気されたことがある夫の出所を待ちわび、実の妹は男の子を欲しがる夫のためにお腹の中の女の子を、身の危険を冒しながら中絶するも、別の出来事によって亡くなってしまうのだが、その死をもなんとか乗り越え、ミレンの中絶のためフランス行きの手助けをする。そしてその道中でベアが自分の元から巣立つ予感を察知し、それを受け入れようとする。中絶の権利が認められていたら回避できた悲しみも多くあることから、母親も被害者の一人と言えよう。

2023年の東京国際映画祭では本作以外でも、『パワー・アレイ』や『ライ麦のツノ』など、女性の望まない妊娠をテーマとして、過去や現在の実情を背景に、多様な立場の人々が負う身体的・精神的苦しみを描いた作品を多く鑑賞することができる。
国や立場、法律や信仰などが違っても、妊娠は当人に多大な影響を与えることには変わりない。多くの作品を観比べながら、この問題について考える人が一人でも増えることを願っている。

36TIFF 2023/10/25

作品情報

原題:In the Company of Women[Las buenas compañías]
監督:シルビア・ムント
キャスト:アリシア・ファルコ、エレナ・タラッツ、イツィアル・イトゥーニョ
公式サイト
予告編はこちら

妄想パンフ

新聞を折り曲げたデザインで、新聞の内容には抗議運動が1985年に実を結び、中絶手術の権利を認められたことを現地の言葉で記す。
ベアも参加した抗議運動が新聞で正しく報道されなかったことを悔しがるシーンがあったので、パンフのデザインでその想いを昇華させたい。

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