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【PATU REVIEW】完全に騙された!4つの点から前作と比較して凄さが分かる『search/#サーチ2』が問いかける“be patient”なマインド

文=小島ともみ

親子三人の仲睦まじい家族旅行のひとコマで、映画は始まる。娘はまだ小さく、父親と一緒にハンディカムを手にしながらはしゃぎ回っている。傍らには、二人を心許なげに見守る母親の姿。この場面になにか違和感を覚えたら、それはおそらく正しい。最後までその直感に従えば、思いもよらない方向へ捻れまくる物語に振り落とされず、真実へとたどり着くことができるかもしれない。

4月14日(金)より公開の『search/#サーチ2』は、タイトルこそ『search/サーチ』(2018)の続編のようだが、「デジタルプラットフォームを駆使して消えた人間を探す」フォーマットを用いた全く別の物語である(原題は『Missing』)。
今回、消息を絶つのは母親グレイス、その行方を追うのは18歳の一人娘ジューンだ。父親のジェームズは、ジューンの幼少期に悲しい出来事があったらしく、今はもういない。グレイスとジューンは心機一転ロスに移住して新しい生活に踏み出して以来、二人暮らしである。ジューンは、自分に対しては口うるさく過保護な親の一面を見せながら、ケヴィンという恋人と楽しむグレイスが鬱陶しくてたまらない。ある日、グレイスはケヴィンと二人でコロンビア旅行に出かけ、ホテルから忽然と姿を消す。未成年で行動範囲にも資金にも制限のあるジューンは、ネットの海に飛び込み、二人の足取りを追う。
……という具合に、『search/#サーチ2』は前作『search/サーチ』を観ていなくても問題なく楽しめるのだが、両作品はコール・アンド・レスポンスの側面があるのではないかと思う。そこで二つを比べることで浮かび上がってくる面白さをみていきたい。

1.デジタルプラットフォームは格段に進化!
『search/サーチ』はFacebookやInstagramといった、今となってはやや古いタイプのソーシャルメディアを中心に、ライブ配信アプリを少々、そこから抽出した情報を元にGoogleマップで足取りを辿るというわりとシンプルな構成だった。警察の捜査力も働き、さくさくとIPアドレスを突きとめて娘とやり取りしていた相手を割り出してはつぶしていくお手軽なスタイル。それでも「ネット空間に散らばっている情報の断片で人の足取りが追える」状況は十分に刺激的であり、同時に、知らず知らずのうちに個人情報をネットにばらまいている危険に震撼させられた。『search/#サーチ2』では、主人公ジューンがデジタルネイティブ世代とあって、思考とネットがダイレクトに連動したデジタル世界の歩き方を、秒単位でポップアップして切り替わるパソコンの画面で見せる。その速さは驚異的だ。デジタルリソースだけでなく、監視カメラの映像といったリアルな情報も取り込みつつ、二人の足取りにぐんぐん肉薄していく。一方で、フェイクニュースに代表されるように、ネットの世界で「真実」はいともたやすく作り上げられてしまう。個人のレベルなら、さまざまな加工が出来るアプリなどを使って年齢、性別までもが思いのままに変えられ、なりたい外見を手に入れられる。そうした匿名性を逆手にとって悪事を働く者もいる。虚構か事実かを見分けるスキルに欠ける「信じやすいユーザー」が陰謀論者に変貌を遂げたり、怪しげなビジネスにハマっていくのは特段珍しい話ではない。安易に推測可能なパスワードを使い回して裏も表も身バレする「つけ込まれやすさ」はとりわけプレ・デジタル世代が陥りがちなトラップでもある。ジューンたちデジタルネイティブは虚実を嗅ぎ分ける鼻を持っている。わたしたちはいつしかジューンの目を通じて、画面上に次々あらわれるデジタルの事象のなかに「おかしい何か」を感じ取れるようになる、というのは錯覚で、それは制作陣の巧みな仕掛けのたまものである。しかしこの「気持ち良さ」がジューンの探索とともに加速度的に増大していくのは、なんともエキサイティングだ。

2.デジタル時代の安楽椅子探偵!
そう、前半最大の見所は、めまぐるしくスピーディーに展開するデジタル追跡劇である。グレイスとケヴィンが訪れたのは南米コロンビア。世界でも誘拐が頻発する国のひとつだ。かつて日本人も被害に遭ったことがある。はじめは外国人観光客を狙った誘拐事件に見えた二人の失踪は、同じフェーズで二転三転した挙げ句に違ったフェーズへ飛んでいく。しかしジューンの調査はそのたびに行き詰まるわけではない。まるで英国ミステリの女王、アガサ・クリスティの創出した探偵エルキュール・ポワロのいわゆる「灰色の脳細胞」の働きを可視化したかのようだ。椅子に座って人々の話に耳を傾け、矛盾に着目しながら理論を収束させて結論を導き出すポアロがごとく、ジューンは画面上に広げたデジタル付箋を縦横無尽に繋げて次の可能性をはじき出していく。『search/サーチ』の父親が、拾い上げた事実を直観的に組み上げて真相にたどり着く「シャーロック・ホームズ型」であったのと対照的である。

3.デジタルリテラシーの濃淡が効いている!
『search/サーチ』のデジタルリテラシーは一様だった。父親はおそらくIT関連会社勤務かIT部門に所属しているかで、コンピュータをそれなりに使いこなす。ライブ配信アプリには戸惑うものの、情報を即座にデジタルで一覧にしたり、娘のソーシャルメディアアカウントにログインしたり、Reddit(アメリカ最大級の掲示板サイト)で検索したりもする。ごく一般的なネットユーザーか、それよりも少しだけデジタル能力が高い。その意味で彼の捜索の様子は物語の展開にストレスを与えることなく、観る者の没入感を誘った。『search/#サーチ2』では、まずデジタルネイティブ世代ジューンの鮮やかなお手並みにただただ驚嘆させられる。高校生の親世代であるグレイスも頑張ってはいるが、FaceTimeの使い方を誤ってジューンにからかわれたりもする。“Hey, Siri”という呼びかけが気恥ずかしくて使いこなせない身としては、「Siriばっかり使ってる!」とジューンに鼻で笑われる場面は身につまされるものがあった。そしてもう一人、重要な人物が登場する。ジューンを助けるこの人物は、グレイスより少し上の世代で、スマホは使えるけれども、Instagramの綴りを間違ったり、「_(アンダーバー)」を出すのに苦戦したりして、「ああ、はいはい」といった微笑ましい瞬間を提供してくれる。三者三様のギャップが物語に緩急をつけ、ハラハラさせる瞬間を生む。息つく暇もなく降りかかる謎がこの濃淡とリンクして深みを増していく展開は素晴らしいというほかない。

4.鍵になるのはやはり「親子間のわだかまり」!
『search/サーチ』では突然消えた高校生の娘を、父親が彼女の残したパソコンから情報をかき集めて行方を追った。亡き妻の弟に「まず友達に聞け」といわれるものの、ひとつも名前が浮かばないことに「気づいて」愕然とする場面は、同世代の子どもを持つ親ならドキリとさせられただろう。父親は探索の過程でソーシャルメディアのなかにいる「自分の知らない娘」の姿に直面し、彼女が抱く母親への深い思慕、いまだ癒えない悲しみを目の当たりにする。そして、ずっと娘を独立したひとりの大人として扱い、「努めて普通でいる」日常を保ち続けたことが逆に彼女を傷つけていたと悟るのである。娘も本音を吐露せず平気なふりをしていた気遣いが、父親とのあいだの溝を広げていたことに気づく。『search/#サーチ2』はそんな前作とはまるで対極の状況を描いている。娘ジューンには明かせないある理由で彼女の心身が心配でならない母グレイスは、何かにつけてジューンを構おうとする。ジューンはそんな母親の態度にイラつくが、諦めをもって受け入れている。
両作品ともいわゆるZ世代の親子関係を軸にしながら、アプローチは真逆であるところに注目したい。Z世代親子を描いた端緒的作品のひとつアリ・アスター監督『ヘレディタリー/継承』(2018)でトニ・コレット演じる母親は、夜中にひとり、家族を置いて映画に出掛けたり、動揺していたとはいえ食事の席で息子に酷い言葉を投げつけたりする。息子は息子で、自分では解決できない大変なことをしでかしても、親に打ち明けようとはせずに、まず一人で抱え込んでしまう。互いに家族の一員である前に一人の自立した存在であり、ある一線を越えて干渉するのはウザくて野暮なのだ。そうして「個」の部分を尊重した結果、従来型の家族関係で求められていた親の責任は軽減され、子は代償の大きな自由を得る。ルカ・グァダニーノ監督の青春カニバルロードムービー『ボーンズ アンド オール』(2022)では個人主義がいよいよ極まり、親は自分の人生から子を抹消し、子はいわば、十分な訓練を積まないまま補助輪を外された自転車で荒れた道を進まざるを得ない状況に陥る。『search/サーチ』は、互いを思いやるあまり「ある一線」の前で逡巡し葛藤するZ世代親子に「ウザ絡み」の大切さを説いていたように感じる。『search/#サーチ2』は、さらに進んで、個の尊重が生んだ親子の分断を埋め直そうとするベクトルが働いている。“be kind”というアジア的価値観を新たな視点で推し広げたのが『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)なら、『search/#サーチ2』は“be patient”を親の側に取り戻させる。子どもが子どもらしく居られる時間――適切に傷つき、適切に怒り、マイナスの感情を乗り越えて自己肯定感を育む「モラトリアム」の時間――を確保するのが親の務めだと説いているのである。その姿勢に子は「ウザい過保護」で「子を信用しない酷い親」というレッテルを貼るだろう。親が「あなたのためを思って」と言ってみたところで、子には親の支配欲を正当化する言い訳にしか聞こえない、というのは、誰もが来し方行く末である。そこで「勝手にしろ!」と手を引いてしまうのではなく、どんな反発を受けようとも“be patient”でいる親の愛、その尽きることのない深さを子が知る瞬間を、『search/#サーチ2』はスリリングな展開のなかに織り込んでいる。親だけではない。自分を取り巻く大人たちが実はみな、体を張って自分を守ってくれていたことが分かったときの、途方もない安寧感は、与える側の大人世代にも、受け取る側の子ども世代にも世界と関わっていく自信と覚悟をもたらすだろう。そこから生まれる大きな感動が、追跡の興奮と入れ替わり立ち替わりやって来るのだから、面白くないわけがない。前作『search/サーチ』よりも格段にセンセーショナルな展開をみせる体感型ムービー『search/#サーチ2』。そのダイナミズムはぜひとも劇場で味わうべし!

作品情報

『search/#サーチ2』 公式サイト

原題:MISSING 
4月14日(金)全国の映画館で公開
監督・脚本:ウィル・メリック&ニック・ジョンソン(前作『search/サーチ』編集)
原案:セヴ・オハニアン(前作『search/サーチ』脚本・製作)&アニーシュ・チャガンティ(前作『search/サーチ』監督・脚本)  
製作:ナタリー・カサビアン、セヴ・オハニアン、アニーシュ・チャガンティ
出演:ストーム・リード(ジューン役/ドラマシリーズ「The Last of US」、「ユーフォリア/EUPHORIA」)、ニア・ロング(グレイス役)、ヨアキム・デ・アルメイダ(ハビ役/『ワイルド・スピード MEGA MAX』)、ケン・レオン(ケヴィン役/TVシリーズ「LOST」)、ダニエル・へニー(パーク捜査官役/TVシリーズ「クリミナル・マインド」)
<上映時間:1時間51分>

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