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【PATU REVIEW】北風と太陽の原理である『劇場版 センキョナンデス』

文=鈴木隆子 イラスト=喜田なつみ

自分が政治に関心を持ち、能動的に情報を取りにいくようになったのはコロナ禍以降だ。恥ずかしながらここ3年ぐらいの、全くもって最近の話である。特に20代ぐらいまでは、一応大人だから…という気持ちで投票には行っていたものの、立候補者や政党について調べるのは選挙の時だけ。ちなみに小中学校では、社会科の教科書に国会や選挙の仕組みが図解付きで載っていたことを覚えているが、先生はさらっと説明しただけだったので、あまり重要なことだとは感じなかったし、自分の周りの友人たちも同じことを言っていた。一部にはしっかりとその必要性を伝えている先生もいるとは思うが、日本の多くの教育現場では、重要なこととして伝えられていないのではと感じる。

という訳で、自分の生活に直結しているはずの政治に関心を持たずに今まで生きてきた。しかしコロナ禍という前例のない事態に見舞われた2020年、日本政府が対策を講じるたび、そのひとつひとつの決定事項や発言などに憤りを覚え、悲しみ、疲弊していくなかで、この国は自分が思っている以上にかなりマズイことになっているとやっと気が付き、政治に目を向けるようになったのである。
そこから、衆議院議員・小川淳也氏の選挙初出馬からの17年間を追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020)(以下『なぜ君』)や、2021年に行われた第49回衆院選の激戦選挙区のひとつ「香川1区」の選挙戦を追った、『なぜ君』の続編的位置付けでもある『香川1区』(2021)など、日本の政治をテーマにしたドキュメンタリーも好んで観るようになっていった。そして『劇場版 センキョナンデス』はこれら二作品の監督である大島新がプロデュースをつとめると知り、もちろんこれ以上ない期待を寄せて公開を待った。

『劇場版 センキョナンデス』。ピンクで彩られた手書きのタイトルロゴが波をうち、ダースレイダーとプチ鹿島の可愛い似顔絵が添えられたメインビジュアルが目を引く。選挙についての映画なんだろうなというのはタイトルですぐ理解できるが、お堅い雰囲気は皆無で、むしろ親近感とワクワク感が溢れている。選挙と政治をテーマにしながら、この雰囲気は一体…?

本作は、ロンドン育ちで海外の時事問題にも精通し、司会業や執筆業もこなすラッパーのダースレイダーと、新聞14紙を毎日読み比べしている「新聞読みのプロ」で時事芸人のプチ鹿島が毎週金曜日の正午から配信しているYouTube番組『ヒルカラナンデス(仮)』を映画化したものである。2020年に緊急事態宣言が発令された直後にスタートしたこの番組は、その週の主要なニュースからピックアップした時事ネタトークを繰り広げるのだが、テレビのニュースやワイドショーだけでは伝えることができない、ひとつひとつのトピックを深く鋭く、自身の意見も交えながら伝える姿にファンが増え続けて続けている。その中で、2021年の衆議院選挙と、2022年の参議院選挙でスピンオフとして行った「選挙特番」の取材映像やドキュメント部分などの膨大な素材をもっと多くの人に観てもらおうと、今回一本のドキュメンタリー映画をつくることになったのだという。

「選挙」「政治」と聞くとお堅いイメージを持つ人がまだまだ大半だと思う。しかし地図を広げ取材の計画を練り、合間合間にご当地グルメに舌鼓を打ち、ワクワクしながら各政党の選挙演説に向かう彼らを見ると、「あれ? 政治って、ひょっとして結構楽しめるものなのかな?」と気になってくるに違いない。彼らも選挙権を持っているいち日本国民である以上、応援している政党や候補者はもちろんいるだろうが、選挙演説を聴き取材をする姿勢は常にフェアで偏りが無いので、誰もが安心して観ることができるのは大きなポイントだ(その姿には、フリーランスライター・畠山理仁(みちよしさんの「選挙漫遊十箇条」が反映されている。詳細は本作のパンフレットにて)。

ときには面白おかしく、エモく、エンタメとしての選挙の楽しみ方を伝えてくれる人が私たちには必要だったと気付いた。直近の、2022年の参院選の投票率は52.05%とまだまだ低い。投票方法をはじめ様々な課題は山積みだが、やはり人は楽しそうなものに惹かれるし行動を起こしたいと思うもの。義務感にかられて行くよりも、また、投票に行っていない人たちやこれから選挙権を得る若い層の人たちが「投票に行きたい!」「早く選挙権がほしい!」となるように、有権者が選挙を楽しむ姿を見せるのは効果的なのではないか。コロナ禍を経て、ネットやSNSの使い方もどんどん変化していっているから、投票する側も異次元の投票率アップ対策を講じて、政治や選挙への向き合い方を変えていくべきタイミングが今まさに来ている。

作品情報

監督:ダースレイダー  プチ鹿島
エグゼクティブプロデューサー:平野 悠 加藤梅造
プロデューサー:大島 新 前田亜紀
音楽:The Bassons(ベーソンズ)
監督補:宮原 塁
撮影:LOFT PROJECT
編集:船木 光
音響効果:中嶋尊史
宣伝:Playtime
配給協力:ポレポレ東中野
配給:ネツゲン
2023 年/日本/ドキュメンタリー/109 分/DCP

作品公式サイト

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