映画パンフは宇宙だ!

MAGAZINE

【PATU REVIEW】無限に生きたい。でも、こんな人生じゃない。『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』

文=パンフマン

 登場人物が何度も同じ時間内を繰り返す体験が描かれる「ループ映画」と呼ばれるジャンルについて「最近は作られすぎ」「マンネリ化している」などの声をよく目にする。同じ服装でも違和感なく衣装替えも多くなく、場所の移動もそれほど発生しないため、ロウバジェットでも製作できてしまう故に増えすぎている感はある。けれど、こうした意見の本心は「ただ面白いループ映画が観たい!」ってことだけだと思うのだ。そんな願いを叶えてくれたのが昨年10月に公開された『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(以下、「MONDAYS」)。英題は「Mondays: See You “This” Week!」らしい。 

 過酷な労働環境の小さな広告代理店で働く社員が何度も月曜日の朝に目覚め、同じ1週間を繰り返すというストーリーは映画館にいる間は仕事のことは忘れていたい人にとって地獄のような展開だが、既成のループ型という物語形式を用いながら、単純過ぎず複雑すぎず、絶妙なバランスでこれまでの類似のループ映画とは違った体験を味合わせてくれる作品だ。観る前は1週間というスパンは当然1日よりも長いし、ここがテンポ良く描かれているかどうか不安だったが、杞憂だった。

 レビューサイトでの観客の満足度は極めて高く、次々と評判を呼び、大ヒットしている。その要因は会社が舞台であることも関係しているかもしれない。『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(09)、『午前3時の無法地帯』(13)、『ちょっと今から仕事やめてくる』(17)など日本ならではのしんどい仕事・労働映画の系譜に連なる内容にも親近感が湧き、動員につながり、ウケた一因となっている可能性もある。
 というのも、ループ映画は北米、ラテン系、インドなど各国で作られているが、それぞれのお国柄が垣間見えて、面白いのだ。そういう意味で「MONDAYS」は日本を代表するループものと言える。

 2010年代を象徴するループ映画と言えば『ミッション: 8ミニッツ』(11)、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)、『ハッピー・デス・デイ』(17)(※1)などが挙げられる。これらの作品は主人公の死を持って、時間が繰り返されるけど、「MONDAYS」は眠りに落ちる感じでリピートされるので、ホラー系の描写が苦手な人でも安心して、鑑賞できるのも特徴となっている。

 昨年公開されたループ物の日本映画『カラダ探し』と本作にはいくつか共通点が見られたのが興味深い。例えばオカルト系雑誌「ムー」らしきものを持った登場人物がいるところ。これはループ現象を知らない人に対して説明役でもあるのだが、「MONDAYS」ではさらに上記の2010年代のループ映画を既に認識していた人が出てくるのは特筆すべき点だろう。これによって、登場人物たちがループ現象に直面しても、それほど右往左往しないという物語上の都合以上に、同じ映画を共有しているであろう観客との歩調が合わせられ、作品の中に一気に引き込まれる。

 ループ映画について知っているということは即ちそこからの抜け出す方法についてもある程度は検討をつけられるので、ある人物はタイムループの原因は部長が身に着けている怪しいブレスレットにあると推察する。ここはちょっと「脱出ゲーム」ぽいというか、脱出の鍵は人間的に成長にあるといった、これまでのループ映画にあった流れからの変化が感じられるところだ。
 さらに、「ループ現象からはいつかは出られるはずなので、それまでこの時間内で有意義な経験をしよう」と考え、限定された時間の中で、最大限にループ時間を楽しむ人物も現れる。このあたり『カラダ探し』でも見られるモンスター退治を中断し、今を謳歌しようと息抜気に海へ遊びに行く描写とも近い。ループ時間にどちらかと言えば消極的な理由で滞在する人よりも積極的に滞留する人が増えたのは『パーム・スプリングス』でも見られたけど、新しい潮流の一つなのだろう。ちなみに『カラダ探し』ではループが終わると、記憶も経験もリセットされてしまうと後々判明するので、残酷な設定ではある。

 ループ内に留まるイコール半永久的に生きられるのを意味するのだけど、登場人物は大体出ていく選択をする。「MONDAYS」も例外ではない。最近のループ映画だとタイムマシンを使って、恋愛の最高の瞬間を何度も繰り返す『ミートキュート ~最高の日を何度でも~』(22)やループするごとに1時間ずつ時間が短縮されるスペイン産『The Incredible Shrinking Wknd』(19、日本未公開)などは気を衒い過ぎている感があったけど、本作は繰り返しからの脱出を正統に真正面から描き、このジャンルに真摯に向き合っていた。

 Twitterの感想でも流れてきたりもしたけど、終盤には映画を観て数年ぶりくらいに泣いてしまった。「喜び」「悲しみ」「怒り」「嬉しさ」なんなのか自分でも意味がよく分からなすぎて、帰宅して『人はなぜ泣き、なぜ泣きやむのか?―涙の百科全書』を手に取りました。どんな種類の感動なのか体験したい人は是非劇場に駆けつけてほしい。

※1 PATU Fan×Zine vol.04「バースデイだけど死にまくりでアンハッピーだけど新しい自分に出会えてハッピーabout HAPPY DEATH DAY/2U」もよろしくお願いします!

作品情報

監督:竹林亮
脚本:夏生さえり、竹林亮
音楽:大木嵩雄
出演:円井わん、マキタスポーツ、長村航希、三河悠冴、八木光太郎、髙野春樹、島田桃依、池田良、しゅはまはるみ
2022年製作/82分/G/日本
配給:パルコ
作品公式サイト

Share!SNSでシェア

一覧にもどる