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【TIFF5日目レポート6】「レバノン」と聞くと思い出すこと『テルアビブ・ベイルート』

文=パンフマン

東京国際映画祭で『テルアビブ・ベイルート』を観てきた。1982年と2006年に起こったイスラエル・レバノン紛争を背景に、国境を挟んだ2つの家族の運命が交錯するドラマであった。両国間を車が走るポスターから推測される通り、2人の女性が出会い、ある目的地に行くある種ロードムービー的な展開を迎える。20年以上にわたる時間が経過するが、それだけ戦火が長く続いた証左でもあり、空爆や戦争はもはや日常的な状況としても描かれていた。

個人的な話で大変恐縮だが、レバノンという国名を聞くと長い付き合いのある友人のことを連想してしまう。彼は高校の時から授業中にフランス語やアラビア語の勉強をしており、米国の大学に進学後はレバノンに留学していた。大学卒業後もレバノンに渡ったり、日本でも一時期、在日レバノン人コミュニティで仕事もしていたりで、この国の話はよく聞いていた。私は行ったことがないので、その代わりというか日本で観たレバノンに関する映画について、質問したものだ。彼とは世界的にコロナが流行する直前の2019年末に会ったきりで、その後のやりとりは上海でプログラマーとして働いている彼に私が送った「ボラットの続編観た?」という間の抜けたメッセージでやりとりは終わっている。中国で観られるかどうか知りたかったのだが。

近年ではレバノン人とパレスチナ人の口論をきっかけに法廷劇を交えながら政治問題を扱った『判決、ふたつの希望』(18)、パンフで俳優陣が歩んできたバックグラウンドに驚かされた『存在のない子供たち』(19)などレバノン映画が高い評価を得ているが、実際のところレバノンを舞台にした映画はまだまだ少ないのが現状で、本作『テルアビブ・ベイルート』では大半がキプロスで撮影されたらしく、映画製作の難しさが伺える。

ミハル・ボガニム監督はテーマについて「戦争では、より多くの犠牲を払っているのは女性だということを強調したかった」と述べている。レバノンを舞台にした映画はただでさえ少ないのに、さらに女性の視点に立った作品はまだ十分にないのが現状だろう。今作がきっかけで中東地域に関心が持たれるきっかけになればいい。

35thTIFF 2022/10/29

作品情報

原題:Tel Aviv Beirut [Tel Aviv Beyrouth] 監督 :ミハル・ボガニム
キャスト:ザルファ・シウラート、サラ・アドラー、シュロミ・エルカベッツ
116分/カラー/アラビア語、英語、フランス語、ヘブライ語/2022年/キプロス、フランス、ドイツ
予告編はこちら

妄想パンフ

A5変形。表紙にはポスタービジュアルを採用。ストーリーの背景を解説。レバノンを知る映画を網羅した企画記事も。

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