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【TIFF7日目レポート3】出稼ぎビジネスの深すぎる闇『コンビニエンスストア』

文=鈴木隆子

モスクワ郊外にある24時間営業のコンビニエンスストアで働く従業員たち。一様にその表情は暗く沈んでおり生気が感じられない。日本に住んでいる私たちがいつも利用しているコンビニエンスストアとは全く異なる光景に、ここは何かがおかしいとすぐに察した。従業員は皆、ウズベキスタンなどからやってきた出稼ぎ労働者。彼らは住み込みで働いているようで、寝る時は男女関係なく全員でひとつの部屋に雑魚寝状態。仕事中は監視カメラでオーナーが常に見張っているため、ミスをするとすぐさま暴力をふるわれ、逃げ出そうとした者には拷問とも思える恐ろしい仕打ちが待っている。従業員を一人の人として扱わず、軟禁状態で奴隷のように働かせているこの惨状は、2016年に発覚した実際の事件がもとになっている。

ウズベキスタン出身のミハイル・ボロディンの監督デビュー作である本作。今回の東京国際映画祭コンペティション部門で上映されたキルギス映画『This Is What I Remember(英題)』(2022)もロシアへ出稼ぎに行ったまま消息不明となっていた父親とその家族たちが描かれ、今回の映画祭だけで見ても、中央アジアの人々にとって「出稼ぎ」が身近なものであることが見えてくると同時に、その地域が抱える貧困などの社会問題が浮かび上がってくる。

それにしても、藤元明緒監督の『海辺の彼女たち』(2020)で描かれている日本にやってきたベトナム人技能実習生たちしかり、なぜ世界中の出稼ぎ労働者たちの全員が、身の安全を心配することなく、真っ当な給料をもらい「普通に」働くことができないのだろうか。雇用主は次々とやってくる労働者たちのパスポートを回収し後戻りできないようにしたあとに、彼らが当初聞いていた金額よりも低い給料の額を提示する。さらに劇中で描かれる警察との癒着もあるとなれば、彼らは八方塞がりだ。

なぜそれでも出稼ぎへ向かうのかというと、自国での働き口が無いことや、あったとしても家族を養えるだけの十分な金額を稼ぐことができないなど、自分の国や地域の経済問題が改善しないままだからだ。これは遠い国の話ではなく、先出した技能実習生に労働力を依存している日本も大いに関係している。

世界では毎日のように様々な問題や事件が起きていて、特に今であればコロナやロシアのウクライナ侵攻についてなどが連日ニュースで大きく取り上げられているが、その影に埋もれてしまっているたくさんの事柄のなかに、彼らのような出稼ぎ労働者たちの問題も存在しているということをまず知ってほしい。そして本作のように、このことを題材とした映画などの作品によって、ニュース以外のところでも世界中の人に知ってもらえる機会が今よりもっと増えるといい。私たちが彼らにできることは少ないが、本作をきっかけとして知ることができたこの問題について更に深め、自分ができるかたちで発信していきたいと思う。

35thTIFF 2022/10/31

作品情報

『コンビニエンスストア』
原題:Produkty 24
監督:ミハイル・ボロディン
キャスト:ズハラ・ サンスィズバイ、リュドミラ・ヴァシリエヴァ、トリブジョン・スレイマノフ
107分/カラー/ウズベク語、ロシア語/英語・日本語字幕/2022年/ロシア、スロベニア、トルコ、ウズベキスタン
予告編はこちら

妄想パンフ

A4サイズ、横の判型。
ライトが異様にキラキラしているけど中は地獄という、暗闇に浮かび上がるコンビニの外観が頭から離れないので、店の写真を大きく表紙に載せたい。
青〜緑色のネオンで書かれている店名を、原題のタイトル「Produkty 24」にする。
内容は、本作の元となったという2016年に発覚した事件の詳細を載せ、出稼ぎ労働者から見たロシアと周辺諸国の関係性とそこにある問題について深めたい。

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