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【TIFF7日目レポート2】2022年の独立時代/エドワード・ヤンの恋愛時代 [レストア版]

文=パンフマン

『エドワード・ヤンの恋愛時代』[レストア版]を観た。デジタル処理をされ鮮明な画像となって約30年前の作品が新たに蘇っていた。新作よりもチケットの売り上げが好調のようで、「みんなもっと新作も観ようよー!」という反発も覚えたりもしたが、観終わっては全然古びていない今観ても全く新しい映画だと確信している。
数年前のある映画雑誌で「牯嶺街少年殺人事件」が90年代外国映画のベスト1に選ばれているのを読んだ時、反射的に歴史の書き換えではと思ってしまった。90年代が終わった直後の2000年にアンケートを実施してたとすれば同じ結果になっただろうかと。でも、後になって重要性に気づくことはあって、斯く言う私も『ヤンヤン 夏の想い出』の後に『恋愛時代』を観たのだけど、当時は画質が悪かったせいもあってかいまいちよく分からなかったのだ。時代が追いついていなかったなんてことはザラにある。

原題は獨立時代で、英題は”A Confucian Confusion(儒者の当惑)”、日本語タイトルは『恋愛時代』と三者三様なのが面白い。誰かに依存するか独立するかを巡る物語なのか、混乱から逃れるために儒者を目指す人を描くのか、日本のバブル期のトレンディードラマに過ぎないのか。登場人物たちの職業もカルチャー・ビジネスの会社の経営者、企業コンサルタント、現代アート風味の劇作家、テレビのキャスターや小説家など、華やかに見えるだけでなく、血が通っている。よく感情をあらわにして、たくさん喋る。

エドワード・ヤンの映画からは純粋な芸術家の面だけでなく、職人が手掛けた感触も伝わってくる。彼の長編デビューが40歳手前だから、遅咲きと言えるのだが、それまでは生計を立てるために、働いていた期間が長かったのだ。彼自身、その時間を無駄だったかもしれないと言いつつも、労働で学んだ論理的思考やマネージメント能力が撮影現場で役立つこことに気づいたそうだ。「芸術系の人間は、そういうトレーニングが欠落しがちですからね」と辛口の一言を付け加えるのも忘れていない。

昔オールタイムベスト映画の選定にあたって、「人を死の方向へ進ませる作品は除いた」と書いていた人を憶えている。それで言ったら『エドワード・ヤンの恋愛時代』はその真逆の作品だと思う。日常をたくましく生きる、働く人の人生を肯定してくれる映画だろう。

他の映画に帰りたくなくなるような洒脱なラストにはアンドレ・ジッドの小説「放蕩息子の帰宅」にある一節が反映されているらしい。

「浜辺の砂がどんな感じだったか言わないで、わたしが自分で歩くから」

※1995年公開時のパンフや書籍なども参考にしています。

35thTIFF 2022/10/31

作品情報

原題: A Confucian Confusion [Restored Version][獨立時代]
監督 エドワード・ヤン[楊德昌]
キャスト :チェン・シャンチー、ニー・シューチュン、ワン・ウェイミン
129分/カラー/北京語、英語・中国語・日本語字幕/1994年/台湾
予告編はこちら

妄想パンフ

A5判。裏表紙には小粋なラストシーンを持ってきても良いかも。オリジナルのパンフおよび読本では楊德昌による登場人物達のイラストや相関図が掲載されていたが、レストア版が一般公開された暁にも人間関係がクリアになるページはほしい!

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