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【TIFF5日目レポート2】This is America『セカンド・チャンス』

文=浦田行進曲 妄想パンフイラスト=映女

ミシガン州でピザ屋を経営していたリチャードは、配達中に強盗に遭遇した経験から身近にある危険に目を向ける。ほどなくして彼が開発したケブラー繊維製の防弾チョッキは、従来の鉄素材のものとは異なり銃弾を受けた際の衝撃が少なく、非常に安全性が高かった。これが大ヒットになり、リチャードは自身の立ち上げた「セカンド・チャンス」社とともに街一番の有力者となった。防弾チョッキは米国中の警察に導入され、銃撃戦から多くの警察官の命を救った。日々名前が書き加えられていく、年齢や撃たれた時の状況を一覧化した生存者リストは広告効果とともにある種見せ物のようになり、リチャードの自尊心を肥大化させた。生存者中でも一番のお気に入り、アーロンという男は後にセカンド・チャンスの社員として雇用される。
商才に長けたリチャードだが、自費で大規模な花火大会を開催したり、チョッキによってサバイブした当人たちによる再現VTRを自主映画として製作したり、なかなかに目立つのが好きな人間のようだ。アメリカン・ドリームを掴んで浮かれているだけなら良いが、多額の訴訟費用を逃れるため、自身が引き起こした事故の責任を未成年に押し付けようと図ったり、ワールドトレードセンターへ突撃する旅客機を見た時は「忙しくなるぞと思った」と発言するなど、危うい倫理観をもつ人間でもあった。街の8割がセカンド・チャンスの従業員であるため、彼の力は絶大で、起こした事件に対する罪はしばしば軽減された。自身の都合の良いように物事を解釈するタイプであるらしく、彼が語るエピソードは信憑性が薄く、どれだけ真実が含まれているかわからない。元社員やその家族たちへのインタビューによって明らかにされていくリチャードの人間性、最高の生存者ことアーロンとの関係の変化、最終的に10万人の命を危険にさらすに至った彼の行動の顛末などはどれも劇的で、これぞアメリカ、という感じだ。
自社の開発した兵器が人を傷つけていることにショックを受けて、ヒーロー活動に舵切りした、みんな大好きトニー・スターク社長を脳裏に浮かべつつ、多くの人命を救う発明品を生み出しておきながら人を不幸にしてまでも己の欲望のままに突き進むリチャードが果たして善人なのか悪人なのか、私には判断がつけられない。

35thTIFF 2022/10/29

作品情報

『セカンド・チャンス』
原題:2nd Chance
監督:ラミン・バーラニ
2022年/89分/カラー/映画/日本語字幕/アメリカ
予告編はこちら

妄想パンフ

普通じゃ満足できない男なので、変わり種パンフを。彼の原点であるピザ屋をイメージしたデザインに。

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