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【TIFF5日目レポート1】「あなたが暮らす街の写真を撮っておきなさい」と誰かが言ってた。『この通りはどこ?あるいは、今ここに過去はない』

文=パンフマン

東京国際映画祭でパウロ・ローシャ監督によるポルトガルのヌーヴェルヴァーグである「ノヴォ・シネマ」『青い年』(63)を題材にしたドキュメンタリー『この通りはどこ?あるいは、今ここに過去はない』を観てきた。『青い年』が撮影された通りや建物の今が映し出される内容だが、映画の舞台となった場所を巡るという形式が作品は珍しいように思う。ホセ・ルイス・ゲリン監督のジョン・フォード主演『静かなる男』(53)のロケ地アイルランドのコング村を題材にした『イニスフリー』(90)や地震発生後に『友だちのうちはどこ?』(87)の出演者たちの安否を確認しようと撮影場所の村を訪ねる体裁の『そして人生はつづく』(92)などが近い気もするが他にはあまり思いつかない。

監督はジョアン・ペドロ・ロドリゲス、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタの2人。彼らが住む家の窓から見える建物が『青い年』に映し出されていることをきっかけにリスボンの街角の様子を次々にカメラに収めていく。同じくポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラ監督『アニキ・ボボ』に出演していた子供たちの数十年後を追いかけたテレビドキュメンタリーを観たことがあって、子ども達は既に老人になっていたけどまだ存命でポルトの港町には当時の面影が残っていたり、オモチャ屋の建物も現存していたり、ある種の郷愁を誘うものだったが、本作はノスタルジーの方向とは少し違う印象を受けた。というのも主役が都市や街の風景に置かれているからだろう。

この部分は11月1日に行われる監督のQ&Aを聞いてみたいのだけど、コロナ下において際立っていた特殊な状況が強調されている。人通りが消えた都市に音楽だけが鳴っていたり、パンデミックを警鐘するアナウンスが響き渡ったり、ある人物の不自然な動きが何を意味するか最初は分からなかったのだけど、感染を避けるためにドアノブに触れないようにして扉を開けようとしている動作の理由には気づくのにラグがあった。既にもうコロナ下で見られた街の風景は忘れられつつあるのかもしれない。こんな風にあっという間にある時期の街の様子は消え去っていくのだろう。

本作のベースにあるのは当然『青い年』なので、事前に鑑賞しておくのが望ましいというか、知らないで楽しめるかと言えば正直厳しいと思う。もし公開される場合は併映されるのがベストだろう。ポスターにも登場している通り『青い年』に出演していたイザベル・ルト重要なシーンで登場していることもあるし、街の移り変わりを感じ取れるかは結構重要なポイントだ。ちなみにロドリゲス監督『鬼火』に主演する二人も冒頭に出てきている。

「今この街の風景を写真に収めておいたほうが良い」と言われたことがあって、十数年前の当時はスマホはまだ一部の人しか持ってない頃で、携帯電話に撮影機能はあったけどインスタもないし、写真撮影の頻度は少なかったはずで、街の風景は今よりも形として残りにくかったのですぐにピンときた。もちろん長年変わらない風景もあるのだけど、街の風景は突然急速に変わったりもするし、あの土地に前建っていた建物が何だったかすぐに忘れてしまいそうにもなる。カメラマン鷹野隆大による「カスババ」という写真集が昔あった。「写欲を萎えさせるどうしようもなくつまらない場所」、「滓の場」で「カスババ」と呼んだそうだ。如何につまらない場所でも誰かにとっては特別な所かもしれないし、写真にでも残しておかなければ誰かの記憶の中だけでしか再現できなくなってしまう。

35thTIFF 2022/10/29

作品情報

原題:Where Is This Street? or With No Before And After[Onde Fica Esta Rua? ou Sem Antes Nem Depois] 監督 :ジョアン・ペドロ・ロドリゲス、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ
キャスト :イザベル・ルート
88分/カラー&モノクロ/ポルトガル語/2022年/ポルトガル、フランス
予告編はこちら

妄想パンフ

サイズはB5変形ヨコ(セルゲイ・ロズニツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選のパンフと同じ)でジョアン・ペドロ・ロドリゲス監督作を100ページくらいでまとめて1冊というのはいかがでしょうか。

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