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【TIFF3日目レポート3】種を蒔く人『アイ アム ア コメディアン』

文=浦田行進曲 妄想パンフイラスト=映女

本作は“テレビから消えた”ウーマンラッシュアワー・村本大輔氏の約3年間を追ったドキュメンタリーだ。
2013年「THE MANZAI」での優勝以降、彼らのテレビ出演数は年間100本、200本と右肩上がりだった。しかし2017年、漫才のネタに政治を持ち込むようになってからその数は激減し、2020年の出演数はたった1本になってしまう。大麻を合法化しようと発言したことがきっかけでNHKの特集番組がキャンセルになったというエピソードをしっかりネタにし、「テレビマンこそ大麻でも吸ってリラックスしたほうがええんちゃうか」と笑いに変える彼は、アメリカでスタンダップコメディアンとしての成功を目指していた。

知識の浅い者が意見することは許されず、大多数と違う主張をすると正しくない考えとして論破される風潮。「ろくな意見もないのに政治を持ち込むな」という考えを一定の納得感を持って受け入れてしまうこと、一度失敗をしたら終わりで間違った発言は禁物、完璧ではない人間の主張をまず懐疑的に捉えてしまうのは、残念ながら私自身身に覚えがある。
村本氏は臆することなく現地へ向かい、当事者の声を聞き意見を交わす。時にその主張はすれ違うが、まず目を合わせてくれることが嬉しいと人々は口を揃える。

日本を変えたいなら政治家になれ、という父の言葉に対し、お笑いで変えたい、自分はコメディアンであり、お笑いがこの世でいちばんすごい職業だと思っていると涙ながらに伝える場面がある。本作を観るまで村本氏は日本のお笑いを変えたい人なのだろうと想像していたが、その言葉を聞いてようやくお笑いで日本を変えたい人だったのだと、戦っているものの大きさを知った。日本人の意識を変えるための種蒔きを、お笑いを通じて行っている。すごいのは彼のネタが本当に面白いことだ。実際本作を観ている間、劇場では何度も笑いが巻き起こっていた。村本大輔はスクリーン越しに我々の心にも種を蒔いた。

35thTIFF 2022/10/27

作品情報

監督:日向史有
キャスト:村本大輔(ウーマンラッシュアワー)
2022年/108分/カラー/日本語英語字幕/日本・韓国
予告編はこちら

妄想パンフ

判型は大きな舞台を表現するために大きめのA4サイズ。
村本氏が訪れた場所のマップ、年表が欲しい。

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