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【TIFF2日目レポート1】ジャングルと閉塞感『ラ・ハウリア』

文=浦田行進曲

舞台はコロンビアの奥深い森の中にある、犯罪を犯した少年たちの更生施設。殺人のかどで投獄されている主人公エリウは、ドラッグ中毒、強盗など様々な罪で捕らえられている他の少年たちとともに、少々精神の不安定さを感じさせる刑務官の監視下で肉体労働に従事している。
大人しい性格で誰よりも従順なエリウであるが、その眼光は常に鋭く、誰かを睨みつけて射すくめるよう。父親と見誤り彼が殺めてしまったという男の死体はなぜか見つからない。

虫の鳴き声と葉擦れの音が絶えぬ中、プール掃除や土地の整備という一風変わった刑務作業を行う少年たち。セラピーと称して行われる一連の、若干怪しげな集団療法のうち、特に、悪い気を大地に吸わせろ、と少年たちが円になって体を震わせる光景はさながら、カルト宗教の信者たちが孤島で共同生活を送る『ビリーバーズ』(2022)の冒頭シーンを彷彿とさせる異様さがあった。
物語の根底には、自らを苦しめる暴力の象徴として父の存在が描かれている。かつて嫌悪していた姿は少年や刑務官自身の内側にも陰を落としており、彼らにとってはそれがつらくてたまらない。“男らしさ”に囚われている男性たちはどこの国にも共通して居るのだろう。
ジャングルと閉塞感という、一見かけ離れた設定もそうは思わせない新しさがあり、軽快なイメージを持っていたラテン音楽も本作内でかかると憂いを帯びた響きに変わる。「明日になれば、朝が来れば、苦しいことなんか忘れられる。昨日もそう思った」は私が学生時代に読み心に突き刺さった『赤色エレジー』の一節だが、当時感じた将来へのどうしようもない不安が蘇りつつ、ラスト柔らかに射す木漏れ日によって少しだけ救われたような気がした。

35thTIFF 2022/10/26

作品情報

原題:La Jauria
監督:『ラ・ハウリア』アンドレス・ラミレス・プリード
2022年製作/88分/コロンビア・フランス合作
予告編はこちら

妄想パンフ

判型はA5サイズ、縦。
最も印象的だった、エリウが炎越しにこちらを睨みつけているカットを表紙に使用。あまり馴染み深くないコロンビアの情報やラテン映画の他作品解説などの内容があると嬉しい。

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