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【PATU REVIEW】羊毛を着た仲間たちに変わらぬ愛を!『LAMB/ラム』

文・イラスト=浦田行進曲

9/23(金)公開の『LAMB/ラム』は、予告編の時点から不穏さたっぷりで、いわゆるA24ファンたちの大好物かつ(はっきりとは映らないものの)ケモナー大歓喜映画では、と予想していたのだが、まさにという作品だった。
舞台はアイスランド、山中で羊飼いをして暮らす夫婦。ふたりの間には過去にあった何かが影を落としているようで、会話はほとんどないまま淡々と日々の仕事を繰り返す生活をしている。
ある日のこと、いつも通り手慣れた様子で迎えた飼い羊の出産だったが、そこで誕生した「何か」によって、彼女たちの暮らしは激変する。
「”あれ”は一体何だ?」「ーー”幸せ”ってやつさ」
映画は3つのチャプターで構成され、それぞれの章ごとに、加わるもの・退場するものが存在し物語を進めていく。説明的な台詞は全くないものの、ふたりに起きたであろう出来事が推察される繊細な描写、また、おおかた想像はついているが早くその姿をはっきりと見たいという浅ましい好奇心をかき立てる「何か」に身を委ねていると、終盤でまた違った驚きが待っている。
水面に反射した姿という構図が作品内で繰り返し現れる。ふとしたとき、鏡面に映り込む自分の姿を私たちは直視しているだろうか? 電車や街角で、不意に無意識の状態の自分の姿を見かけたときのように、周囲に溶け込めているかそうでないかを確認すると、目線を変えれば自分のほうが異物だと気づくこともあるだろう。これはエゴかもしれないが、異種間の分かり合えなさみたいなものも愛で乗り越えていけないものかしらと思わず考えてしまった。
ちなみに『ベイブ』を子どもの頃から繰り返し観て育った世代の私は、羊たちは礼儀正しく接すれば応えてくれる生き物だと信じている。バーラムユー、羊毛を着た仲間たちに変わらぬ忠誠を、変わらぬ愛を。

作品情報

『LAMB/ラム』
監督・脚本:ヴァルディミール・ヨハンソン
脚本:ショーン
出演:ノオミ・ラパス、ヒルミル・スナイル・グズナソン
作品公式サイト
2021年 / アイスランド・スウェーデン・ポーランド / 106分 / カラー / シネマスコープ

パンフ情報

発行日:2022年9月23日
発行承認:株式会社クロックワークス
編集・発行:松竹株式会社 事業推進部
編集:川本奈七星(松竹)
デザイン:大島依提亜
印刷:成旺印刷株式会社
定価:1,000円(税込)

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