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【PATU REVIEW】職人の手仕事にこれからも騙され続けたい『クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち』

文=鈴木隆子 イラスト=喜田なつみ

「クリーチャー」(creature)とは、想像上の生き物、伝説の動物、創造物という意味。
昔から映画には、現実世界には存在しない生物やロボットなどが沢山登場してきた。それらのあまりにも精巧なつくりや動きで、空想と現実の境界線があやふやになり、気づかぬうちにその世界に没入してしまった経験はないだろうか。映画鑑賞の一番の醍醐味といっても過言ではないその映画体験は、クリーチャーたちを創り出す「クリーチャー・デザイナーズ」と、その作品の監督たちの手によってもたらされているのだ。

恐竜、巨大サメ、怪獣、ロボット、謎の生物…。クリーチャー・デザイナーたちは、監督のイメージをデザイン画に起こしてゼロから作り上げる場合もあるし、原作もので既にキャラクターの絵はあったとしても、皮膚や毛の質感や、その生物の性格までを考慮した身体の動きを想像し、現実世界に落とし込む。俳優に施す特殊メイクも同様だ。これは、この世に存在しない生物を創り出し、命を宿す仕事なのだ。まさに、劇中に登場するデザイナーたちの「命を作るという考えに心を奪われた」「まるで神になったよう」という言葉がとてもしっくりきた。
作品の中で生きているキャラクターたちに命を吹き込んでいく過程は非常に興味深い。本当に生きていると見紛うような、表情や身体の滑らかな動きは、デザイナーたちの高度な技術と想像力の賜物だ。

しかし多くの人がお気づきのとおり、今まで手作業で実物を作ってきた部分を徐々にCGが台頭することが増えてきていて、本作ではもちろんそのことについても語られている。CGの進化によって表現できることが増たり、物理的に不可能だったものも画面の中では可能になり、時間や予算を減らすことができる場合も多い。
CGデザイナーたちが創り出すものは、生物の動きについての科学的根拠や膨大なデータに基づいているからこそ本物であると信じてしまうほどの説得力があるし、そこに行き着くまでにどれだけの時間や労力がかかっているのかは、素人の自分には想像がつかない。CGの使用が広まったのは、ただ単に時間や予算を削りたいからという理由だけではないのだ。

しかし、クリーチャー・デザイナーたちは今まで、ある意味「実物」であるクリーチャーたちと俳優の共演を実現させることで、俳優たちのモチベーションを鼓舞する役割も担ってきたのだそうだ。
少し話は逸れるが、セットもそう。映画を観ているときはロケかCGだと思っていた場面が、鑑賞後にパンフレットを読むと実は巨大なセットで、その迫力のある細部まで作り込まれたセットの中で演じることができて嬉しかったと語っている俳優のインタビューを読んだことがある。やはり演技にも影響するようだ。そういったことを知ると、クリーチャー・デザイナーたちが現在のこの状況に意気消沈してしまう気持ちがわかるし、映画を観る側としても俳優の最高の演技が観たいから、それを引き出せるように、できる限り本物に近い状況をつくって撮影をしてほしいと思ってしまう。

ちなみに本作のパンフレットが作られていないことは非常に残念だが(あくまで自分の勝手な想像だが、それぞれの時代の代表作と言っても過言ではない名作たちに登場する「クリーチャー」の掲載許可を取るのが難しかったのではないかと…)、特殊効果と同様に、作品を作るうえで大きな役割を担っている「音響」や「音楽」制作の裏側に迫るドキュメンタリー『ようこそ映画音響の世界へ』(2019)と『すばらしき映画音楽たち』(2016)のパンフレットを下記で紹介しているので、ぜひ作品と合わせて注目してほしい。

昔も今もこれからも、作品づくりを支える職人たちの存在は不可欠だ。まず本作を鑑賞してから、劇中で取り上げられている作品をクリーチャー・デザイナーの視点で観てみるのも面白いだろう。作品制作の裏側で頭を捻り、ときにもがき苦しみながら、クリーチャーたちに命を吹き込む人たちがいるということを知ると、今まで観てきた作品とこれから観る作品が何倍も愛おしくなるはずだ。

作品情報

監督:ジル・パンソ、アレクサンドル・ポンセ
出演:ギレルモ・デル・トロ、ジョー・ダンテ、ジョン・ランディス、ケビン・スミス、フィル・ティペット、デニス・ミューレン、リック・ベイカー ほか
作品公式サイト
2015年/フランス/英語・フランス語/日本語字幕/カラー/104分/ビスタサイズ/原題:Le Complexe de Frankenstein

【パンフレット】
無し

関連パンフ情報

『ようこそ映画音響の世界へ』(2019)
発行日:2020年8月28日
編集・発行:アンプラグド
デザイン:嘉手川里恵
定価:700円(税込)

『すばらしき映画音楽たち』(2016)
定価:400円(税込)

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