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【PATU REVIEW】今このタイミングで彼らを目撃してほしい『スパークス・ブラザーズ』

文=鈴木隆子 イラスト=喜田なつみ

2008年にフジロックに来ていたのか…観逃した!! と14年前の自分の行動に今、すごく後悔している。
あの日あの時、スパークス出演時間の裏で私は誰のステージを観ていたんだろう? と、ネットに落ちているであろう過去のタイムテーブルを探したりして、更に後悔を深くするということにしばらく時間を割いてしまった。

ゾンビ・コメディ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)で長編デビューを果たし、音楽に乗せたアクションがたまらない『ベイビー・ドライバー』(2017)、サイコホラー描写を用いて1960年代ショービズ界における女性搾取をテーマに描いた『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)など、変幻自在の作家性で作品を発表する度にファンを増やしているエドガー・ライト監督。
監督が挑戦した初のドキュメンタリーとなった本作は、監督自らスパークスに直談判し制作が決定。ロンドン、東京、メキシコのツアーに同行し、関係者やファンたちへ80回に及ぶインタビューを自ら行い、3年の制作期間を経て遂に完成した非常に熱量の高い力作だ。

「スパークスが成功するために必要なのはただ一つ、彼らのこれまでを追ったドキュメンタリーだ」と本作のパンフレットにあった監督のコメントを読んで、約50年ものキャリアがあり、現時点で27枚もアルバムを出していて、ワールドツアーを行い日本にも来ているのに、なぜ今まで自分にはスパークスの音楽とタッチポイントが無かったのか不思議に思っていたのだが、そういうことかと納得した。
スパークスのいちファンである監督が、彼らのキャリアを長年追い続けてきたからこそ、どのようにすれば彼らの魅力を最大限に伝えることができるのか、試行錯誤し本作が作り上げられたのだろう。その愛が炸裂した最高のスパークス紹介映像a.k.a『スパークス・ブラザーズ』は、まだスパークスに出会っていない人々に、その魅力を知らしめるものになった。

「謎に包まれたバンド」と言われているように、スパークスは自らの音楽性をどんどん生まれ変わらせ、今も進化を止めることはない。長いキャリアの中でその冒険的な姿勢は世間の理解が追いつかないときもあり、苦労も多かったようだ。しかし自分たちを信じて長い目で未来を見据えブレなかったから、結果的に多くの人に受け入れられ数多くのミュージシャンに影響を与えるバンドになった。劇中の彼らに関係する人々の証言を聞けば、よりそのことについて理解できると思う。

しかしながら、スパークスが過去に発表してきたものすごい数の楽曲から、劇中でどの曲を取り上げるかというところがまず難しかったのではないかと推測する。それに加え、彼らに影響を与えた音楽なども余すところなく盛り込み、膨大なインタビューと、アニメーションを用いた様々なエピソード描写…彼らの軌跡を141分でこのようにまとめ上げたのは本当にすごいことだし、だからこそ多くの人がこの作品で新たにスパークスの魅力に気づけたのだと思う。

今年開催されるSUMMER SONIC 2022に早くも出演が決まり(大阪8/21)、劇中でラッセルが、医療が発達してあと300枚アルバムを作ることになるかもしれないと言っていたので、これからも続いていく彼らのキャリアを追いかけるファンが雪だるま式に増えていくのは間違いない。

作品情報

監督:エドガー・ライト
出演:スパークス(ロン・メイル、ラッセル・メイル)、ベック、アレックス・カプラノス、トッド・ラングレン、フリー、ビョーク(声)、エドガー・ライト
作品公式サイト
2021年/イギリス・アメリカ/カラー/ビスタ/英語/原題:The Sparks Brothers/141分

パンフ情報

【奥付情報】
発行日:2022年4月8日
発行者:大田圭二
発行所:東宝株式会社映像事業部
編集:株式会社東宝ステラ
デザイン:三堀大介 木村真也(SIREN Inc.)
印刷所:成旺印刷株式会社
定価:880円(税込)

関連パンフ情報

『アネット』(2021)
【奥付情報】
発行日:2022年4月1日
発行所:ユーロスペース
発売:ライスプレス株式会社
発行人:堀越謙三
編集人:西嶋憲生・岡崎真紀子
編集協力:高崎俊夫
デザイン:桜井雄一郎
印刷・製本:株式会社グラフィック
定価:1200円(税込)

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