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【PATU REVIEW】「ループ世界の住人はリメイク映画の夢を見るか」

文=パンフマン イラスト=あずさ

過去作をアレンジ

 今年2月から配信が始まったNetflixオリジナル作品のインド映画『エンドレス・ルーーープ』を見た。あらすじは、かつて陸上選手として華々しく活躍していた女性サヴィ(タープシー・パンヌ)が、怪我により引退を余儀なくされ、絶望のあまり病院の屋上から飛び降り自殺をしようとする。そこにギャングのサティヤが現れ、助けられる。ある日、サティヤがボスに渡すはずだった大金をなくしてしまう。一度は走ることを諦めたサヴィだったが、自分を救ってくれたサティヤを今度は救うため、奔走する。タイムリミット内に現金を用意できなければ、サティヤはボスに殺されてしまう。しかし、サヴィは奇妙なタイムループにはまってしまうという要するに「主人公が同じ時間を繰り返し過ごす羽目になる設定」のループもの映画だ。

 どこかで聞いたことのあるストーリーだと思ったら、1998年のドイツ映画『ラン・ローラ・ラン』をアレンジした作品らしい。ちなみに2009年にも『ラン・ローラ〜』からインスパイアされた『ローラがやって来た』という映画も製作されていて、こちらは東京国際レズビアン&ゲイ映画祭や関西 Queer Film Festivalで上映されたきりなので、見たことはないが、とても気になる(※1)。

1982年の「偶然」

 本作の主眼は「ループから抜け出すこと」よりも、「選択や決断が運命を変えること」に主眼が置かれている。これは元ネタの『ラン・ローラ〜』がキェシロフスキ監督によるポーランド映画『偶然』(1982)の影響下にあるためだ。父を失って、自分の存在価値が見出せなくなった医学生が電車に飛び乗ろうとする彼の選択が3つに枝分かれしていくストーリー。これもどこかで聞いたことあると気付いた人もいるかもしれない。『ラン・ローラ〜』と同時期に公開された『スライディング・ドア』(1998年)もグウィネス・パルトローが主演の地下鉄に乗れた場合と乗れなかった場合で異なる人生になるというプロットで、この頃の時間の捉え方として何か受け入れすいものがあったのかもしれない。『エンドレス・ルーーープ』でも「たった一日で運命は変わる」とのセリフが何度も反復され、決断の重みが強調されている。今回のリメイクにあたり、上映時間は長くなっているもののオリジナルへのリスペクトが感じられる作品であった。

製作費が安く済む?

 いわゆる「ループもの」については『ハッピー・デス・デイ』とその続編を特集したPATU Fan×Zine vol.04でループ映画を紹介する記事で書かせてもらったが、ネトフリオリジナル映画にはループ作品が割と目立って配信されている。その理由の一つはこの設定が人気というのもあるのだろうが、「製作費が安く済むため」とも考えられる。誰かが同じ1日や時間を繰り替えすだけなので、服装も大きく変えずに済む。制限時間があるため、移動範囲も限定されるので、割と同じ空間での撮影が可能だ。その時間内では出会える人も限られるので、大人数キャストを揃える必要がない…など。
 黒沢清監督の短編「タイムスリップ」では大杉漣演じる大学教授が時間をテーマにした講義している途中にループに巻き込まれる。それに気づかず、何度も講義を繰り返す。この映画については宇多丸氏が「タイムパラドックスがないSF」と称しつつも「ただテイクを繰り返しているだけ」とも冗談めかして、指摘している。その間、セットも衣装も変化は見られないが設定上に違和感はない。

 主人公がループしていると設定すれば、あとはそこにいくつか要素を付け加えるだけで、一本撮れてしまうのはオリジナル作品をコンスタントに生み出さなければならない側にとって都合が良いからではないだろうか。さらに、本作は過去作のリメイクに近い形で、アイデアさえも言わば借り物である。ネトフリさんお得意の急ごしらえとも言われるくらい、すぐに制作されるオリジナル作品ここに極まれりという気もするが、これはこれで全然悪くないのではとも思っている。ループ映画マニアとリメイク映画マニアはもちろん歓喜!

各国版を比較

 今回の『エンドレス・ルーーープ』もオリジナルのドイツ版と比較する楽しみ方があるように、他の国でリメイクされた映画はまた別の視点からの味わい方を教えてくれる。
2014年公開の韓国映画『怪しい彼女』は70歳の女性が20歳くらいの見た目に若返ってしまうコメディで、数々の賞に輝いた翌年には早くも中国で『20歳よ、もう一度』というタイトルでリメイクされた。さらに同じ年にベトナムで邦題『ベトナムの怪しい彼女』が、翌年には日本で『あやしい彼女』としてリメイクされている。その後も『突然20歳 タイの怪しい彼女』、インドネシア版「Sweet 20」、フィリピン版「Miss Granny」、テルグ語版「Oh! Baby」など次々に公開された。
 ここには製作会社CJ E&M(現CJ ENM)が採用した一つの作品で複数の国に売り込んでいく「ワンソース・マルチテリトリー」という戦略があったとされる。単に映画を海外に売り込んだり、リメイク権の販売するのではなく、リメイク作を相手国の現場で製作する方法をとった。この手法は2011年の『サニー永遠の仲間たち』(※2)でも引き継がれ、日本版『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018)、ベトナム『輝ける日々に』(18)、インドネシア『Bebas』(19)などでリメイク版が作られている。物語の大枠はざっくりと言えば「ある女性たちがいて、昔の仲間と再会し、過去を振り返る」というもので、どこの国にも当てはめることができるだろう。時代ごとの歴史的な出来事があって、加えて音楽や本などのカルチャー、料理などが各国ごとの味付けでトッピングされていて、リメイクではあるものの、それぞれの国の独自性を見出すことができる。この話が好きな人なら、どれも見たくなるはずだろう。

最多リメイク映画

 ところで、世界で最もリメイクされているは何だろう。それは2016年のイタリア映画『おとなの事情』のようだ。ほんの数年前の作品だが、現在では20カ国以上で製作され、本数としてギネス認定されている。ギリシャ、スペイン、トルコ、インド、韓国、ハンガリー、メキシコ、中国、アルメニア、ポーランド、ドイツ、ベトナム、日本、チェコ、ルーマニア、オランダ、イスラエル、ノルウェーなどで、全て見比べてみるのも面白いかもしれない。ちなみに製作国レバノン・エジプト・アラブ首長国連邦バージョンは『親愛なる7人の他人』のタイトルでネトフリオリジナル作品として配信されている。
 このストーリーも食事会に集まった人たちに訪れるスマホをめぐって起こる騒動を描いた舞台劇みたいな単純な設定で、お手軽に製作でき、その上、自然とそれぞれのお国柄が垣間見えてくるので、リメイクするならうってつけなはずである。

 漫才やコントにある枠と同じで、それがわかりやすければわかりやすいほど、誰でも応用可能リメイクされやすい作品になれる可能性を持っている。ループ映画が広く知られるきっかけとなった『恋はデジャ・ブ』(1993)も2004年にイタリアで「È già ieri」(英題:It’s Already Yesterday)としてリメイクがあるようで、ループとリメイクは相性がいいのかもしれない。同じ時間を繰り返すものの、その都度、差異が生じる点もリメイク映画と共通しているところだ。

※1…『ラン・ローラ〜』は2003年にもEk Din 24 Ghante (英題:One Day 24 Hours)のタイトルでインド映画としてリメイクされているが、こちらは日本未公開。
※2…2001年の韓国女性が選ぶ最高の韓国映画第1位に選ばれた『子猫をお願い』の影響を受けた作品かもしれない。

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