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【PATU REVIEW】会話の渦と変化にのみこまれる『偶然と想像』

文=鈴木隆子 イラスト=喜田なつみ

VFXやCGなどの映像技術が進化し、その技術を駆使した作品を、3D、4DX、IMAXなど最新鋭の上映環境の中で、人間の五感のほとんどを使い全身で映画を楽しめる現代。こんな時代にいることができて、本当に恵まれていると思っていた。
しかし『偶然と想像』(2021)を観て、今までのその価値観が全てリセットされた感覚になってしまった。

『ドライブ・マイ・カー』(2021)が今年の第74回カンヌ国際映画祭で、脚本賞など4冠を獲得した濱口竜介監督の最新作である『偶然と想像』は、第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞し、現在日本のみならず世界各国で上映されている。

「偶然」をテーマにした3つの短編から成る本作は、最低限の場面転換の中、ほぼ二人だけの会話の応酬で物語が進んでいく。劇中で、というよりも、その二人の「会話」の中で、どんどんどんどん物語が動いていく感覚。観ている者の驚きや喜びなど感情の起伏の全てが、画や音ではなく、「会話」によって呼び起こされるのだ。

第一話「魔法(よりもっと不確か)」では、モデルの芽衣子(古川琴音)とヘアメイクのつぐみ(玄理)の、仲の良い友達同士の恋バナが発展していった先で、観ている側があんなにもスリルを味わうことになるとは思わなかった。

第二話「扉は開けたまま」の主人公である、主婦で学生の奈緒(森郁月)は、年下の同級生・佐々木(甲斐翔真)と不倫中。佐々木は単位をもらえず逆恨みしている、作家で教授の瀬川(渋川清彦)に、スキャンダルを起こさせようと奈緒に共謀を持ちかける。
計画を実行し始めた奈緒と、何も知らない瀬川が対面している様子は、気まずさが画面から溢れてくるほど。しかし状況は徐々に変化を遂げ、その結末は奈緒が目指していたゴールから全く違う方向に逸れていくのを、私たちは目の当たりにすることになる。

第三話「もう一度」は、高校の同窓会に参加するため、久しぶりに地元の仙台に帰ってきた夏子(占部房子)が、駅であや(河井青葉)とすれ違うところから始まる。20年ぶりの再会だと興奮を隠しきれず喜び合う二人の姿は、よくある光景に見えるのだが、その二人の本当の関係については、誰も予想をすることができないだろう。最初は少しだけだった違和感が、どんな形に変化していくのか、二人の会話を聞き逃さずに観てほしい。

映画を観ることで、まるで旅をしたような気分になれたり、ダイナミックな映像や音でできた世界に没入できたり、過去から未来、もしくは架空の現実など、自分とはかけ離れた世界で生きている登場人物たちの人生を追体験することができる。そんな感覚を何度も味わいたくて、いつも映画を観ていた。
しかし、知らず知らずのうちに、映画とはそういうものなんだと、自分の中で固定化されていたことに気がついた。自分の中にあった映画における常識のようなものが、本作を観たことで完全にひっくり返ってしまったのだ。

この、映画における「新しい驚き方」を発見してしまったという感覚は、最新の映像技術を駆使したり、膨大な制作費をかけたりしたところで、観客に与えることはなかなかできないと思う。
ここ数年で韓国と比べられることが多くなった日本映画界。国からのバックアップ体制や製作環境は比べものにならず、その歯がゆさは中の人が一番感じていることだろう。
しかし本作のように、ミニマルなつくりの中で、こんなにも新しく斬新で、豊かな時間をもたらしてくれる作品ができたということは、日本映画界における一筋の光にも思えた。
これからまた、一体どんな新しい映画体験を与えてもらうことができるのかと思うと、楽しみで仕方がない。

作品情報

『偶然と想像』(2021)
監督・脚本:濱口竜介
出演:古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河井青葉
作品公式サイト:https://guzen-sozo.incline.life/
2021年/121分/日本/カラー/1.85:1/5.1ch

パンフ情報

発行日:2021年12月17日
編集:月永理恵 杉原永純 浅倉奏
デザイン:宗仲真紀子 高野稚奈(NEOPA)
発行:Incline
価格:1200円(税込)

関連パンフ情報

『ドライブ・マイ・カー』(2021)
発行日:2021年8月20日
編集・発行:ビターズ・エンド
デザイン:岡野登 柴田理子(サイファ。)
印刷:三永印刷
定価:900円(税込)

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