映画パンフは宇宙だ!

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【第2回 映画パンフの作り手に聞いてみた】 映画会社ムヴィオラ 代表 武井みゆきさん

先日発売した、PATU Fan×Zine Vol.05「あの日の物語を奏でる about タレンタイム〜優しい歌」にて、本作を配給した映画会社ムヴィオラの代表 武井みゆきさんに、zoomインタビューをさせていただきました。
自社の配給作品のパンフレット制作にも力を入れているという武井さん。本誌に載せきれなかった、今まで制作してきたパンフレットのこだわりや裏話、パンフレットと映画に対する武井さんの熱い想いをお届けします!

聞き手:鈴木隆子、パンフマン(映画パンフは宇宙だ!)
文:鈴木隆子
写真:パンフマン、八木、鈴木隆子

映画を観た人に喜んでもらいたい

――鈴木:ムヴィオラさんが配給されている作品のパンフレットは、こだわりを持って作られているなといつも感じます。先日拝見した『春江水暖~しゅんこうすいだん』(2019)のパンフレットも、大変読みごたえがありました。

武井:グー・シャオガン監督のインタビューページが異常に長いですよね(笑)。(合計8ページ!)私がインタビュアーをつとめたのですが、いくら聞いても、どんどん聞きたいことが出てきて、延々と話を聞きたくなってしまいまして。

――鈴木:そうだったんですか! 確かに、インタビューを読むとその空気感が伝わってきます…!

武井:インタビューの扉ページのリード文に、「思い切って〜紹介する」って書いたんです。そうしたら「思い切って」と書いてあるのがすごくよかった!って、知り合いの映画会社の方が言ってくださって。なぜ「思い切って」かというと、実はこのインタビューはマスコミに配布するプレスシートにも全部載せたのですが、普通、プレスに載せる監督のインタビューは、こんなにページを割かないのです。マスコミの方々はプレスシートを資料として、後からそれぞれ取材していただくので、あまりたくさん載せるのは良くないと思ってはいたのですが。

――鈴木:確かに、取材で聞くことが無くなってしまいますもんね。

武井:でも、あまりにもインタビューがおもしろかったので、これはプレスシートにも思い切って載せようって思ったんです。

――鈴木:本作が監督の長編デビュー作ということもあり、監督について沢山知ることができたのでとても嬉しかったです!
『タレンタイム』のパンフレットについても、こだわったところなど伺えますでしょうか。

武井:一番やりたかったのは、シーンの採録を載せること。パンフレットを読みながら、映画を脳内再生できる、そういうことができるパンフレットが一番いいなと思ったんです。
それで、セリフを全て載せているわけではないのですが、映画のシーンを短くですが、採録しました。映画って、公開されたばかりだと何回も観に行けるわけではないので、採録があると「ああ、あのシーンであの人はこういう顔してたな」とか、思い出せるようになるじゃないですか。だから、どうしても載せたかった。

――鈴木:武井さんがプライベートで映画をご覧になるときも、そう思いますか?

武井:はい。昔、シャンテさん(現TOHOシネマズシャンテ)と岩波ホールさんのパンフレットには必ずシナリオ採録が載っていて、それがすごく好きだったんです。でもそれが今は無くなってしまって、寂しいって思ってたんです。もちろん、掲載されている批評やコラムなどもとても興味深いのですが。

――鈴木:『タレンタイム』で特にやりたかったというのは、なぜでしょうか。

武井:この作品は、一度観た人は何度でも観たいっておっしゃるんですよね。それはきっと、繰り返し自分の身体の中に作品を入れたいからなんだろうなと思ったので、それならばシナリオ採録を載せるのはマストだなって。
そこを読みながら、サントラのCDをかけるとか最高ですよ! 頭の中で映画を再生するって、素敵なことなんですよね。人によってイメージの再生の仕方が違うと思うのですが、それもおもしろいなと。

――鈴木:そのパンフレットの楽しみ方は、PATUとしてはぜひ提案していきたいです!その他に、パンフレットを作るうえでのこだわりはありますか?

武井:ムヴィオラのパンフレットは、揃えて置いておけるようになるべくB5サイズで作っています。昔、シャンテさんが同じサイズで作っていて、揃えて置いておけるのっていいなと思っていたんです。

でも、ミニシアター全盛期(1990年代頃)の頃はすごかったですね。変形版、ダンボール素材、全部ポストカードとか…。

――鈴木:そういうのも楽しいですよね。それだけパンフレットにも力を入れていたというのがわかります。

武井:昔は、編集、デザイン、印刷屋さんで、いろんなアイデアを出し合ってパンフレットを作っていたので、その時代が懐かしいですね。できないことがあるって言いたくない、何を言われても刷ってやるって、印刷屋さんにプロフェッショナルな職人さんがいて。そういうところでパンフレットが作られていたので、いい時代だったと思います。

――鈴木:その時に比べると、デザイン性の高いパンフレットは減ってきてはいますが、そういうパンフレットは今でも作ろうと思えば作れる、という文化は残していきたいですよね。

武井:最近は「これは良いパンフレットだなー」と思うものが減ってきていて寂しいです。ミニシアター百花繚乱の頃って、どこも競って素晴らしいパンフレットを作っていたのに。今は手間暇かけて作っても、なかなか収益を出すことが難しいから、配給するほうに重点を置いて、パンフレットの仕事を少なくしている会社が多いんだと思います。

公開当初に『ノマドランド』(2020)を観に行ったとき、パンフレットが無かったのは寂しかったです。特にあの映画は観た後に、本物のノマドの人のこととかをすごく知りたくなったし、それを知って、あの主人公が自分の中で完成する、触れられる気がしたんです。だからすごく寂しくて、映画館の中でしばらく足を止めて考えてしまいました。

――鈴木:しかし無事に後から販売されたので、本当に良かったです。でも公開当初は無かったというのは寂しかったですね。

武井:今はインターネットで何でも情報が取れるけど、日本の映画文化のひとつとして、これからもパンフレットを作る文化はずっと続いてほしいですよ。とはいえ最近は、内容も実際の厚みも薄くて、800円、1000円するものがあって…。

――鈴木:パンフレットを楽しみにしている側としては、少し残念な気持ちになってしまいますよね。

武井:買ってみたら、内容のほとんどがインターネットでも得られる情報だったりすることもあるので、今は買う前にまず中身を見るようにしています。
もちろん、印刷代やデザイン費などがかかっているので、それなりに値段を付けたいというのはわかるのですが、パンフレットを楽しみにしている身としては、中身は充実していて欲しいです。

――鈴木:パンフレットを普段買わない人でも、例えば出演している俳優のファンだからという理由で買ったパンフレットの内容がすごく充実していたら、「パンフレットってこんなにおもしろいんだ!」って思って、次また買ってみようかなっていうきっかけになる可能性もありますしね。

武井:写真を見ることができるものって、すごく重要ですよね。映像と写真では、また楽しさが違う。
宣伝プロデュースとして関わった、『君の名前で僕を呼んで』(2017)では、作品の権利元から宣伝用の素材として写真が沢山送られてきたんです。
パンフレットって多くても40ページぐらいですから、普通に考えたら載せきれない写真の量だったんですけど、「全部載せ」やりましょうかと提案したんです。あの映画を観たら、文章以上に写真を沢山見たくなるって思ったんですよね。この沢山の素敵な写真を、誰にも見せずに映画会社が持ってていいの? って。
だからケチケチせずに全部載せようってやったら、お客さんがすっごく喜んでくれました。

――鈴木:この写真は世に出すべきだと。

武井:はい。この映画が好きって言ってくれるファンの人と共有したほうが良いと思ったんです。

――鈴木:配給会社さんが、前例が無いことでも受け入れてくださって、結果的にお客さんにも喜んでいただけて。

武井:自分の会社だと、前例の無いことでもチャレンジしやすいんですけどね。そのときOKを出してくださった配給会社さんには感謝しています。心が広いなと…。

一人でも多くの人が「パンフレットってこんなにおもしろいんだ!」っていう人が増えれば、良いパンフレットを作ろうと思う映画会社さんも増えると思うので、PATUのみなさんにはぜひ活動を頑張っていただきたいです!

武井さんのパンフレット制作のルーツ

――鈴木:武井さんがお持ちのパンフレットで、お気に入りのものは何ですか?

武井:若松孝二監督の、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(2007)は、すごく立派なパンフレットなんですよ。これは2000円出しても全然構わないと思いましたね。
あと昔のものでいえば、『ブラザーフロムアナザー・プラネット』(1984)、『レポマン』(1984)がお気に入りです。

――パンフマン:『ブラザーフロムアナザー・プラネット』と『レポマン』は同じサイズですよね? ユーロスペースさんが作っていて。

武井:そうですね。この2作品のパンフレットは内容がすごく充実していて、シナリオも載っていましたね。それが印象に残っています。
あとは、先程もお話したシャンテさんと岩波ホールさんのパンフレットに必ず載っていた、シナリオ再録がすごく好きでした。

――鈴木:今まで武井さんが出会ってこられたパンフレットが、現在のパンフレット制作のルーツになっているのかもしれませんね。

武井:そうですね。今まで自分が買って、好きだったものからひらめいたりなど、アイデアの源になることがあります。

自分が作ったものの中から選ぶと、「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2018」、『春江水暖~しゅんこうすいだん』、『死霊魂』(2018)ですね。
シアターイメージフォーラムで行った、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品特集上映「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2018」のパンフレットは、デザインも素晴らしくて(デザイナー:OTUA 石井勇一さん)、本当に自慢の一冊です。

アピチャッポン監督に関しては、いつか『真昼の不思議な物体』(2000)の配給権を買って、日本公開して、DVDを発売するっていうのが夢なんです。初めてアピチャッポン監督の映画を観たとき、スキップして帰ったのを覚えています。「こんなに自由でいいの!?」って、本当に素晴らしくて、すごい才能に出会えたというのが、もう嬉しくて! だから、なんとかそれはやり遂げて、日本公開できた際は、がんばってパンフレット作ります。

――パンフマン:僕は『ペルシャ猫を誰も知らない』(2009、配給:ムヴィオラ)のパンフレットが、パンフレットを好きになったきっかけなんです。

武井:ありがとうございます! バフマン・ゴバディ監督の作品の中で、私も好きな作品のひとつです。あの作品は、『タレンタイム』と共通するところがありますよね。「自分たちを縛っているなにかを破りたい」っていう気持ちが出ていて、本当に良い映画でした。
パンフレット制作の際は監督からも沢山資料を提供いただいたり、イラン映画の通訳やコーディネーターをされている方が、ほとんどのイラン映画に精通している方だったので、かなり助けていただきました。芝山幹郎さん(映画評論家・翻訳家)の映画評も良かったですよね。

これからどんな映画に出会えるのか、という楽しみ

――鈴木:武井さんと、ムヴィオラさんが今後取り組んでいきたいことや、日本の人たちに届けたい作品について教えてください。

武井:自分自身は、「映画は映画館で見たい」「実物大より大きく見えないと嫌だ」と思うタイプなのですが、まだまだコロナ禍が続いていますから、今は映画館以外での見せ方とうまくバランスをとって、会社を生き残らせないといけないので、まずは『タレンタイム』のDVDをご覧いただきたいですね。
あとは、ムヴィオラで過去に配給した作品の配信サービスをまたやろうと思っています。(昨年、「Help! The 映画配給会社プロジェクト」で、ムヴィオラ作品の見放題配信パックの販売を行った)映画館であれ、配信であれ、映画を観てほしいという想いがあるので。

――鈴木:映画に触れることができる機会が増えるというのはとてもありがたいです。

武井:まだまだ映画館に行きづらいという人も多い状況が続いていますが、映画が好きでいられて、映画を観ることができるというのがまず大事かなと思います。

あとは、シネモンド(金沢)で、ワン・ビン監督の特集上映が決まっています(9/18(土)〜9/24(金)で行われた)。もちろん『死霊魂』も上映します。上映時間、長いでしょ(495分)。楽しみにしていてください
フレデリック・ワイズマン監督の作品もまた配給するんですよ(『ボストン市庁舎』(2020)11/12(金)より全国順次ロードショー)。今度は4時間以上あって。

――鈴木・パンフマン:おお〜。

武井:でもいいですよね、長く映画館に居られると思えば、ある意味贅沢です。図書館とかに行ったつもりで…。

――鈴木:確かに、二本立てを観るのと変わらないですし。

武井:ワン・ビン監督がよく言ってますよ、映画を作るときに長さを考えたこと無いって。

――鈴木:今そのお話を聞いて、納得しました(笑)。

武井:「おいおい、考えろよ!」って突っ込みたいですよね(笑)。でも、そういう人が映画業界にいてくれると思うと楽しいですよね。

――鈴木:これから、日本の方にどんな映画を観てもらいたいですか?

武井:『春江水暖〜しゅんこうすいだん』で、グー・シャオガン監督を知ることができたので、新作ができたら沢山の人に観てもらいたいです。彼の今後の事を考えると、すごくワクワクするんです。
その他でいうと、普段から国やジャンルを決めて作品を探すということはあまりしないので、どんどん作品を観て、届けたい映画を見つけていくという感じですね。

――鈴木:以前武井さんはYahoo!ニュースのインタビューで「社会から疎外されたり、封じられてしまった人の声なき声をちゃんと届けている作品に心が動く。」「弱い立場にいる人の声をきちんと届けようとしている作品には弱いです。」とおっしゃっていましたね。

武井:どうしてもそうなるんですよね(笑)。今回、プレカンヌ(カンヌ国際映画祭開催前に、映画関係者向けに開催される上映会のこと)で観たのもそういう作品が多くて。
そうすると、辛い気持ちになる映画は、今はあまり観たくないですよねって言われることがあるんですけど、辛い映画を選んでいるわけではないんです。みなさん、それぞれ辛いことがありながら生きているから、そういう中でも自分の足で立って生きている人がいる、という姿を見ることで力をもらえると思うんです。今コロナ禍で辛い環境にあっても、ひとつ自分の中に芯が持てる、力を持てる、そういう作品を配給できるといいなと思っています。

あとは、マレーシア含め東南アジアや、ラテンアメリカ、アフリカの映画も比較的日本で紹介されることが少ないんですよね。なので、なるべくそういう地域の映画を観て、配給できるものがあればやりたいと思っています。
昨年、ブラジルの映画を配給できたのは嬉しかったですね(『ぶあいそうな手紙』(2019))。

「こういう映画」とハッキリ決めていないからこそ、今度はどんな映画と出会えるのかな?と思うと楽しみです。

――鈴木:今回お話を伺って、これからムヴィオラさんが私たちにどんな映画を届けてくださるのか、ますます楽しみになりました! その作品のパンフレットも期待しています。
ありがとうございました!!

(このインタビューは2021年7月上旬に行われました。)

■武井みゆき様プロフィール
東京都生まれ。2000年に映画会社「ムヴィオラ」を設立。当初は宣伝中心だったが、現在はミニシアター系作品を年間4〜6本配給。ワン・ビン、アピチャッポン・ウィーラセタクン、ヤスミン・アフマド、フレデリック・ワイズマンらの監督作を手がける。

■ムヴィオラ公式サイト
http://moviola.jp

■ムヴィオラBASE(ムヴィオラさんが配給した映画のパンフレット等を購入いただけます)
https://moviola.base.shop/

■PATU Fan×Zine vol.05「あの日の物語を奏でる about タレンタイム〜優しい歌」の購入はこちらから!
https://pamphlet-uchuda.stores.jp/items/61002858444ad9058e27d3cc

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