文=浦田行進曲
油田を掘削するクレーンの不気味な稼働音が響く。澄んだ空に浮かぶ掘削機のシルエットは美しい。
唐突に語り始めるのは法学専攻の大学生ムサ。論文を書くために、4人の女性を誘拐した罪で収監されているダヴという男に会う。被害者の女性たちはいずれも彼のことを告発しておらず、法はそれを犯罪と呼ぶのかを知ることがテーマだ。ダヴと共に女性たちの元を訪れムサは話を聞いていく。
ストックホルム症候群の被害者心理を追っていくストーリーかと思いきや、全くそうではない。彼らの対話方法はかなり独特である。木漏れ日の刺す川辺、廃屋、嵐のリンゴ園、風が強く吹く荒野、雪原といったアゼルバイジャンの美しい景色の中、自然界の音色に包まれながら、歩いたり寝そべったり明後日の方向を向きながらそれぞれが独白のような形で詩的な体験を語る。
「私は人間、そのことに奇妙さは覚えない」という1文から始め、人々は愛について、人生について、神について語る。愛は私の教師。法は罰を与えるのではなく、解放するもの。感じろ、理解しようとするなーー。自分自身への問いであり、心の底に潜るような言葉たち。美しい音楽と映像、全編を通して少し怖い鳥の鳴き声が響いている。それは本当に鳥の鳴き声なのか、男たちが叫ぶ鳴き真似なのか観客は時に区別がつかない。
夜の帳が下りる中、クレーン・ランタンの光を目指して鳥たちが集まる。光の道を示され導かれた鳥たちを狙って、狩猟者はそれを撃つ。全ての人々の話を聞き終えた後、ムサは語る。私は光の道を見つけたのか、それとも撃たれたのかわからない、と。
美しい風景と構図、音楽の中で観客は何を感じるのだろう。
妄想パンフ
解説が詳しく乗っているというよりは、映画を追体験出来るようなビジュアルメインの感じるパンフに。どのカットを切り取っても美しい映画なので、場面写真がポストカードになっているタイプのデザインのものが欲しい。
作品情報
『クレーン・ランタン』(原題:Crane Lantern[Durna Çırağı])
予告編はこちらから
監督:ヒラル・バイダロフ
キャスト:オルハン・イスカンダルリ、エルシャン・アッバソフ、ニガル・イサエヴァ
101分/カラー/アゼルバイジャン語/日本語・英語字幕/2021年/アゼルバイジャン