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【TIFFレポート後夜祭1】強くたくましく生きる少女の素顔を考える『カリフォルニエ』

文=鈴木隆子 妄想パンフイラスト=映女

本作で共同監督をつとめた、アレッサンドロ・カッシゴリとケイシー・カウフマンが、ドキュメンタリー『Butterfly』(2018)製作中に出会ったという、ハディージャ・ジャアファリを本作の主役にキャスティング。彼女が演じるジャミラが9歳から14歳になるまでを、実際に5年の年月をかけて撮影した本作。劇映画だが、まるでジャミラという実在の人物の成長を追いかけているような、ドキュメンタリータッチの作品だ。

イタリア南部の小さな港湾都市トッレ・アンヌンツィアータに暮らす、モロッコ移民であるジャミラの一家。
ジャミラは9歳のときに近所のボクシングジムへ通い、年上の女性ボクサーに憧れを抱き練習に励んでいた。しかし成長するにつれボクサーの夢を追いかけることが難しくなり、学校では周りと馴染めずドロップアウトしてしまう。
それはジャミラ自身の問題というよりも、クラスメイトからの移民差別や、共働きの両親に代わって家事全般や幼い弟の世話もしなくてはいけない、日本でも問題になっているヤングケアラーのようになっていることが、大きく関係しているのではないかと感じた。

学校を辞め、美容室で働き始めたジャミラ。最初は下働きだったが、スタイリングや接客などの技術がどんどん上がっていき、お客さんからの評判も上々。オーナーからも厚い信頼を得るようになる。
初めてもらった、まとまった金額のお給料でジャミラは洋服を爆買したり、自転車とスクーターが合わさったような改造車を手に入れたりして、少しずつ自立する喜びを得ながら、新しくできた夢へと進み始める。

十代前半で自分の人生を切り拓き、たくましく前を向いて進んでいるように見えるジャミラの姿は、決して恵まれているとは言えない環境で、限られた選択肢の中、もがきながら手にしたということを忘れてはいけない。
これからジャミラは、更にどんなふうに変化していくのだろう。ずっと見守っていたい気持ちになった

妄想パンフ

『カリフォルニエ』という不思議なタイトルは、ジャミラが働く美容室の名前。この印象的な名前のお店の看板を、B5サイズの表紙の中央に配置する。
なぜこの名前になったのかは、ぜひ映画を観て確認していただければと思う。

作品情報

『カリフォルニエ』(原題:Californie)
予告編はこちらから
監督:アレッサンドロ・カッシゴリ、ケイシー・カウフマン
81分/カラー/イタリア語/日本語・英語字幕/2021年/イタリア

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