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【TIFF7日目レポート3】作品の思惑にしっかりとハマった心地よさに痺れる『一人と四人』

文=鈴木隆子

密猟がはびこる雪山に、ポツンと一軒だけ建つ山小屋で一人、住み込みで監視員として働くサンジェ。暖房器具は無く、自分で薪を割り、火をおこす。家の中でもムートンコートを常に羽織っていることから、外とあまり気温は変わらないのだろう。扉からの隙間風もすごそうだ。おまけに食糧が不足しているようで、寒さと空腹を、なぜか大量にある酒でごまかしている。

そこに次々と物騒な訪問者が現れる。密猟者を追っているという“自称”山林警察の男。サンジェの妻からの離婚協議書を届けにやってきた、サンジェと同郷の男・クンボ。そして山林警察と名乗る男がもう一人。

警察は密猟者を捕まえたい。密猟者は不当な狩りで得た鹿の角や毛皮を無事に持って帰りたい。クンボはこれに巻き込まれているように見えるが、実のところよくわからない。
この中に密猟者がいる。それは一人かもしれないし、二人で組んでいるかもしれない。誰かが嘘をついている。

お互いを疑い、全員がそれぞれアリバイを証明しようとするが、全てに微妙な違和感が残る。

最初に山小屋に来た警察官は、なぜそんなにも猟銃の扱いに慣れているのか?
警察官が密猟者を車で追っている回想シーンでは、なぜどちらの車もパトカーなのか?
密猟者のものだという車の中には、なぜ大量の空の酒瓶があったのか?
なぜサンジェの妻は、離婚協議書をクンボに持って行かせたのか?
後から来たもう一人の警察官は、なぜサンジェの上司の出身地を知っているのか?
そもそもなぜ、監視員として山小屋にいるのに食糧が不足しているのか?

散りばめられた違和感をかき集め、必死に真実を突き止めていく。でも、誰か忘れていないだろうか?

妄想パンフ

舞台となっている雪山の中に、誰のものともつかない男の人影を中央に配置。
サンジェとクンボ、自称山林警察の男二人の服装が違ったり、北京語とチベット語が入り交じるなどしていたので、舞台となっている地域の民族や言語、文化などの解説を入れたい。

作品情報

『一人と四人』(原題:One and Four[一个和四个])
監督:ジグメ・ティンレー [久美成列]
88分/カラー/北京語、チベット語/日本語・英語字幕/2021年/中国

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