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【TIFF6日目レポート2】『オマージュ』

文=浦田行進曲

映画監督である主人公ジワンは、大学生の息子と定年間近の夫と暮らす49歳だ。自身3作目の監督作品の人気は芳しくなく、苦境に立たされている。
そんな折舞い込んで来た、映画の修復依頼の仕事をお金のために引き受けるジワン。60年代に、同じく女性である映画監督、ホン・ウノンが撮った『女判事』という作品だ。音声の欠落したその映画の失われた台本を、カットされたシーンのフィルムを探して当時の関係者の足跡を辿っていくうちに、その作業はジワンが自分自身の人生を見つめなおすことに繋がっていく。

映画の中に登場する『女判事』のシーンは一部を除き、実際のフィルムが使われている。ホン監督も実在の人物だ。先人たちへのリスペクトや映画に対する気持ちもジワンの眼を通して受け取ることができる。女性であるということが今より一層社会的に不利であった時代を生きた人々の苦悩が、影のように身近に感じられるのは主人公だけではないはずだ。
『パラサイト/半地下の家族』で家政婦の役が印象的だった、イ・ジョンウンの演技からジワンという役柄は圧倒的な実在感を持ち、彼女に向けられた言葉のひとつひとつが観客である自分にも降りかかって来るように思える。中でも、親子仲が良く彼自身も表現者であろうとする息子が、決して彼女の良き理解者ではなく描かれていることには胸に迫るものがあった。息子経由で聞かされる夫の「夢追う女性との結婚は孤独だ」という台詞はすべての働く女たちへ呪いをかける。

それでもやはり、当時から比べれば私たちを取り巻く状況は大幅に良くなってきているのだということを感じずにはいられない。ジワンがホン監督に自身を重ねていくように、シン・スウォン監督の姿もそこへ投影されているはずだ。観客であるこちらも50年後に希望を繋いでいけるような気が、穴のあいた天井から差し込む光のように心に残った。

妄想パンフ

韓国の映画の歴史について補足する解説が読みたい。表紙は、フィルムを探す過程で訪れる寂れた映画館の劇場とそのスクリーンに映し出されている原題오마주の文字をあしらったデザインに。

作品情報

『オマージュ』(原題:Hommage[오마주])
予告編はこちらから
監督:シン・スウォン [신수원]
キャスト:イ・ジョンウン、クォン・ヘヒョ、タン・ジュンサン
108分/カラー&モノクロ/韓国語/日本語・英語字幕/2021年/韓国

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