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【TIFF5日目レポート2】家族との関係をとおして描かれる少女の成長譚『アメリカン・ガール』

文=鈴木隆子 妄想パンフイラスト=映女

アメリカのロサンゼルスから台湾に戻ってきた母と娘二人。父と再会し、家族四人での生活が再スタートする。なぜ三人だけアメリカで暮らしていたのかは詳しく語られていないが、おそらく母親の家がロスにあり、何か理由があって母親が娘二人を連れて一時期戻っていたようだ。
13歳である姉のファンイーはロスの親友を恋しがり、何かにつけてロスに戻りたがる。どれぐらいロスで過ごしていたのかはわからないが、流暢に話す英語から察するに、それが短い期間ではないことがわかるし、この多感な時期に大幅に生活環境が変われば、ストレスを多大に感じるのも無理はない。

ロスでの成績が優秀だったことから、ファンイーは進学校に編入することに。連絡帳にはテストの結果が書かれる欄があり、保護者の署名が必要…? 朝の7時半から聞き取りテスト…?! 今年日本で公開された映画『少年の君』(2019)で、中国の熾烈な受験戦争を垣間見て青ざめたが、台湾もなかなか激しいそう。

狭いアパート、なかなか繋がらないインターネット、馴染めない学校とクラスメート。ファンイーはロスでの生活とのギャップに日々ストレスをつのらせているなか、母が患っていた病気が進行していることが発覚。娘たちも不安なら父親も、当然母親はもっと不安。母親がいなくなってしまうのではという不安と悲しみが合わさり、家族はどんどん不安定な状態に陥っていく。

しかし、ぶつかりあっても家族は家族。娘二人が父親の白髪を染めてあげたり、父親の中国出張中に、ロスを恋しがる娘たちのために母親はアメリカンダイナーに連れていき、心ゆくまで巨大なパフェを食べさせてあげるシーンは、家族の仲が崩れそうになるようなことがあっても、お互いを想い合う気持ちが消えることはない、ということを表しているように思えた。(パフェを食べるファンイーと妹のファンファンの、キラキラした表情には本当に心洗われるのでご注目を。)
家族同士の関係は良いときもあれば、そうでないときもある。人は親やきょうだいとのケンカや家族の病気などをとおして、家族というコミュニティの中でも人生経験を積んでいく。

特に理由を言うこともなく、事あるごとにロスに戻ると言うファンイーに父親が遂に言った「逃げているだけならどこに住んでも同じだ」という言葉は、ファンイーの状況と年齢を考えると少し可哀想に感じなくもないが、父親は意地悪で言っているわけではないということと、この言葉の意味を理解できたら、ファンイーには成長と新しい世界が待っているだろう。

妄想パンフ

ファンイーとファンファンがお母さんとパフェを食べるシーンが微笑ましく印象的だったので、表紙はパフェのイラスト一択で。
カラフルで一見アメリカ映画のパンフに見えるけど、実は家族の物語を淡々と描いた台湾映画なんです、というギャップを狙う。本作のポスタービジュアルが、ファンイーの気持ちを表しているようなダウナーな仕上がりなので、パンフはこれぐらい遊んでもいいだろう。
馬が大好きなファンイーが教科書のページの右端に鉛筆で馬が走るパラパラ漫画を描いていたので、さりげなくパンフにも仕込みたい。

作品情報

『アメリカン・ガール』(原題:American Girl[美國女孩])
予告編はこちらから
監督:ロアン・フォンイー [阮鳳儀]
101分/カラー/北京語、英語/日本語・英語字幕/2021年/台湾

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