映画パンフは宇宙だ!

MAGAZINE

【TIFF4日目レポート2】後悔や悲しみ、執着が混ざりあったその先にあるものは。『四つの壁』

文=鈴木隆子 妄想パンフイラスト=映女

愛する妻に海を見せたい。音楽家のボランは、12年待ってやっとイスタンブールの海が見えるアパートに家族と暮らせることになり、意気揚々と妻と息子と荷物を車に乗せて、アパートに向かう途中で悲劇がおきる。交通事故で重症を負ったボランは5ヶ月間意識が戻らず、奇跡的に目を覚ました時、妻と息子の姿は無かった。

幸せの絶頂から一気にどん底へ叩きつけられたら、どうすればいいのか? しかしそんな状況でもボランの救いは、兄弟や音楽家の仲間など、周りに支えてくれる人たちがいたこと。親身になってくれる刑事もいる。劇中で奏でられるクルド音楽は、その歌詞とともに気持ちを奮い立たせてくれる魅力があった。
ボランの状況は、そう簡単に立ち直れるものではない。しかしこれからも生きていくのであれば、刑事も言っていたように怒りや悲しみを音楽にぶつけて、ゆっくりでいいから前に進むという選択はなかったのだろうか。

いや、実はボランはしっかりと前に進もうとしていたのだけれど、ある場所に「壁」が現れたことによって、その気持ちが崩壊してしまったのかもしれない。
どう考えても物理的に取り去ることのできないその「壁」に、不可能だとわかっていながらも怒りをぶつけながら向かっていくその姿は狂気の沙汰。怒りの矛先が次第にずれていき、周囲の人々も巻き込んで、一体ボランは何と戦っているのか観客もわからなくなってくる。

そして実は交通事故が起きる間際、ボランにはずっと後悔していたことがあり、その記憶の扉が開いた時にボランがとった行動には、おそらく賛否が分かれるだろう。

妄想パンフ

劇中に出てくる、巨大な海の絵をそのままパンフの表紙に。兎にも角にも海に執着するボランなので、タイトルなどの文字要素はあえて一切入れず、この表紙の海の絵を見て、観客も色々と想いをめぐらす…というのが狙い。
内容にはクルド音楽の解説を入れたい。

作品情報

『四つの壁』(原題:The Four Walls)
予告編はこちらから
監督:バフマン・ゴバディ
114分/カラー/トルコ語、クルド語/日本語・英語字幕/2021年/トルコ

Share!SNSでシェア

一覧にもどる