映画パンフは宇宙だ!

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【TIFF3日目レポート1】映画の自由と可能性に気付く『メモリア』

文=鈴木隆子

タイの名匠、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の、初のタイ国外での撮影となり、アピチャッポン監督自身が以前患った「頭内爆発音症候群」の症状から着想を得たという本作は、第74回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、日本では来年の3月に公開が決定。世界各地で期待が高まっている。

明け方に、爆発音のような音で目覚めるジェシカ(ティルダ・スウィントン)。その音はどうやらジェシカ本人にしか聞こえないようで、医者に診てもらっても原因は不明。いつ聴こえてくるかもわからないその音に悩む日々を送る。その音の正体を、最初は観客もジェシカと一緒に探すような感覚で観進めていく。

ジェシカの妹が入院している病院で知り合う考古学者のアグネスから聞いた、発掘された人骨の話や、妹の仕事や寝ている時に見た夢の話などから、その音との関連性を見つけ出そうと必死になりながら鑑賞していくのだが、段々と目の前の出来事が、夢なのか現実なのかわからなくなっていき、様々な要素と結びつけて音の正体を探す必要性を感じなくなっていった。自分は「映画を観る」という行為を、このように知らず知らずのうちに型にはめてしまっていたのではなか、という気持ちにさえなってくる。

ジェシカが悩まされている音は、実際に聴こえているものなのか、幻聴なのか。ジェシカが出会う人々は、どこまでが現実で、幻なのか。それはジェシカ本人もわかっていないのかもしれない。突発的に聴こえる爆発音によって生まれる、不安定な精神状態の中で浮遊しているような感覚を、目の前の映像と音に身を委ねながら観客も一緒になって体験することになる。

セリフはごくごく少なく、環境音をじっくりと聴かせ、最小限のカメラの切り替わり、遠くから俯瞰しているようなカメラワーク、長回し(一番長くて、個人の体感だが20分ぐらいのシーンもあったかもしれない)、を多用して構成される映像。あまり頭を働かせずじっくり観ていると、画面の中に引きずり込まれていくような感覚になる。
日々沢山の映画が作られ、映像技術が進化していくなかでも、まだまだ新しい映画体験ができるのだという驚きと喜びを感じる時間だった。

妄想パンフ

公開が決まっているため省略。本作もデザインに期待!

作品情報

『MEMORIA メモリア』(原題::Memoria)
2022年3月4日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国にて公開。(2021年11月1日時点での情報です)
予告編はこちらから
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
136分/カラー/スペイン語、英語/日本語・英語字幕/2021年/コロンビア/タイ/フランス/ドイツ/メキシコ/カタール

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