文=竹美 妄想パンフイラスト=映女
青少年相談員のハビエルとその妻アデラは、少年院から、妊娠中の十四歳の少女イレーネを密かにうちに匿い、出産の日を待ち続けていた。そこへ、イレーネの恋人であり子供の父親である少年オスマンが出所。万事うまく行くかに見えた計画がどんどん崩壊していく。
代理出産、十代の妊娠、中絶、高齢出産、帝王切開、無痛分娩など、生殖を巡る問題を扱うことはいつでも物議を醸し出す。子どもが欲しいという欲望と、妊婦の当事者性が真正面からぶつかっているからだ。
ハビエルとアデラは、最初はイレーネにも自分たちにもお互いに利益のある取り決めだと信じて疑っていない。そこに現れた不確定要素は、ギャップのモデルさんかと思うような容姿のオスマンだ。出所してイレーネに会い、これから三人で暮らしていけると言い放ってしまう。…どう見ても三人とも破滅しますよね、これ。と全員が思う。若造たちは頭使ってない。現実的に考えれば、夫婦からできる限りの条件を出させて、三人が楽して暮らし、余裕が出たら改めて二つの家族のあり方を話し合えるはずだ。でもそれは所詮俯瞰的な観客の寝言。
対する夫婦は中年で、人生に選択肢はそうそうたくさんは無いと知っている。だから、オスマンに説得されてイレーネが、やっぱり子供は渡さないと言い始めたときも、特に、ハビエルは冷静そのもの。
何となく、何が何でも子供を欲しがっているのはアデラのように見えた。ハビエルは、過去に一体何があったか分からないが、夫として妻の願いを叶えたいと願い、また、補導されるような子供たちばかり見てきた人生から離れて、自分の子供をちゃんと育ててみたいという欲望があったのか。
イレーネの欲望は不安定でころころ変わるし、そもそも内面がほとんど描かれていない。その都度の欲望の器に見える。あの子が子供を取り返したとして、数年後、彼女の母親と同じになってしまうのではないか…どうしても、私はあの夫婦の方に肩入れしてしまう。
ラストはある人物を背中から捉え、歩み去っていく様子を映している。確信と希望があるはずのシーンだが、どういう意図だったのだろう。違和感を感じた。
妄想パンフ
ごつごつした険しい岩山の山麓にある白い美しい家をイメージして、ごわごわした紙の白い表紙。窓の形の写真にはぼんやりとした顔のイレーネの顔が見える。ページをめくるごとに、各部屋が描かれ、夫婦の欲望に迫っていくような構成。
作品情報
監督:マヌエル・マルティン・クエンカ
キャスト:イレネ・ビルグェス、ハビエル・グティエレス、パトリシア・ロペス・アルナイス
作品公式サイトはこちらから
122分/カラー/スペイン語/2021年/スペイン