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【PATU REVIEW】序列フェチの快楽

文=竹美

 宗教詐欺、ゾンビになった方がマシという底辺アニメに続き、みんなの興味を引いてやまない美容整形に関するアニメが韓国からやってきた。

 メイクアップ係のイェジは容姿に恵まれていないことに鬱屈していたが、ある日「整形水」という秘薬を手にし、まったくの別人、美しくスタイル抜群のソレに生まれ変わる。しかし、ソレがうっかり整形水の用法を誤ったことから歯車が狂い始める。

 韓国の競争的な側面を文化から考えてみる。イェジは幼少期にバレエを習っており、かなりのレベルに達していたが一番になることはついぞ無かった。その体験が彼女の精神を自縛している。生きながら地縛霊だよ!!「一番になれる才能を持っていたの私がなぜ2番止まりだったのか」と鬱屈しているイェジは、「私の容姿が悪いのだ」「こんな顔に生んだ親が悪いのだ」と思ってすっかり不貞腐れている。ビールごくごくチキンばりばりですっかり太ってしまった。この状況を韓国人は「ストレスを受ける(스트레스를 받다)」と言うが、何というか…「外的な理由で、こうであるべき自分になれていない」という不満である。

 この「一番でなければならない」という強烈な上昇志向、序列フェチと言ってもいいだろう、それこそ、韓国の人が自らを奮起させ、結果的に大きく自らの精神を損なう要因であるように思う。イェジがメイクアップ係として付いている女優のミリは、イェジの反抗的な上目遣いを憎みつつも恐れている。絶対にお前を見返してやる…ゴゴゴゴゴ…しかしイェジは戦いたくても美貌という武器を持っていないという欠落感から無力に陥っていた。そこに付け込むのが整形水を売る業者である。何と上手い作りだろう!

 「人の欲や弱みに付け入って相手を支配し、上に立って偉そうな言葉遣いをする」という表現は、韓国ノワール映画でしばしば目にする情景だが、これもやっぱり「序列フェチ」と繋がっているような気がする。何だかもう、金儲けそのものよりも「相手を屈服させる快楽」の方が上回って見える。今Netflixで話題の韓国ドラマ『イカゲーム』でも同じく、さっきまで偉そうに振る舞っていたのに、立場が変わるといきなり座り込んで手を擦り合わせながら命乞いをする人たち。この豹変ぶりが映画的だが、日本人がそこまで自然だと感じない何かの姿…「文化」が見える。

 日本の人はここまで「序列フェチ」ではない気がする。よっぽどその場所に所属する必要が無ければ、逃げ出すか、そのまま大人しく潰されてしまう。しかし、韓国人はそこで案外「頑張ってしまう」のかもしれない。他の東アジアの人達にもそれを感じるが、彼らの「場」の読み方は序列に基づいている。そして読むのがめちゃくちゃ早い!日本人は、「場」の雰囲気を読むのが早いが、序列はその付属物として察知している。

 ところでイェジは、整形水を大量に手に入れるため、2億ウォン(2千万円くらいか)を出せと言われ、親に無心する。そこそこ頑張ってマンションを買った(不動産価格上昇でいい場所にマンションが買えないというニュースは韓国の風物詩である)と見られるイェジの親達は、子供可愛さにお金を出してしまう。ここにも韓国らしさが出ている。韓国は親孝行する国かというと、実はそうでもない。韓国は今や日本より自殺率の高い国の一つだが、特に高齢者の自殺率が他国より際立って高い。社会保障が発達途上だということもあるが、親が田畑売って子供に教育をし、出世させるという原理の方が強いが故に、子供世代が親と同居せず、「暮らしが大変だから(なぜなら子世代は更に孫世代にもっといい教育を施すから)」という理由で親を経済的に支援できない子供世代のことがニュースでしばしば流れている。イェジは何度も親にお金をせびり、更に、文字通り両親に骨身を削らせてしまう。そこのシーンは滑稽だ。しかし、そこまでしないと上に上がれないのだと妄執する程に、子供世代は上昇志向が強く(本作の通りマーケティングがその欲望を煽る)、その欲に親も反対はできない。子供の教育のために母と子を海外に移住させるというところまでやるのだ。しかし投資しててやった子はお返しができない。そして、親たちもなぜか彼らの生き様を受け入れている…そういう韓国の一面が出ていると思う。

 最後、面白いことが言われる。「ハンサムな男はきれいな女を手に入れられる」と言っている。確かにハンサムな見た目で礼儀正しく優しく接してくれたら、思いのままに女を獲得する確率は上がる。男だってそうすればいいのだ。でも、男はそれができない…。最後に明らかになる黒幕の正体に、転倒したフェミニズムも感じてしまった。男に選ばれるためにきれいになるのではない。皆に選ばれ、序列を這い上がり、一番になるためなら何でもする。その周りには屍が累々と…今更私はK-POPにハマっているが、実態はそのようなものだろう。最後のシーンは恐ろしいものの、黒幕なりの、序列フェチからの救済なのかもしれない。でもやだなw

作品情報

성형수
監督 チョ・ギョンフン
製作国 韓国
85分

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