映画パンフは宇宙だ!

MAGAZINE

【PATUREVIEW】『レリック ー遺物ー』

文=竹美

 家族ホラーとしてホラー映画史に名を残すであろう『へレディタリー 継承』は、そのテーマの割にカラッとしている。もしかしたらアリアスター自身が深く踏み込みたくないのかもしれない。今回の映画『レリック -遺物-』とは正反対だ。豪州の森林地帯の湿った空気に取り巻かれ、家はカビ臭く、どこまでもウェットで陰鬱だ。

 田舎の旧家で一人暮らしの老婆エドナが失踪、警察の連絡を受けた娘のケイと孫娘のサムがエドナの家を訪れる。数日して突如帰宅したエドナは妙な様子を見せ、二人を動揺させる。老人ホームに入れる方がいいのではと現実的に考えるケイと、そんなのは残酷だ、私がおばあちゃんと一緒に暮らすと言い出すサム。まともなやり取りが難しくなっていくエドナ。一方家に潜む闇は、三人を待っていたかのように力を増して行くのだった。

 女三世代の連帯感と亀裂がバランスよく描かれている。女同士だから素早く察し、行動できることがあると思う。男三代の物語だったらここまでスムーズに陰鬱にはできまい。別の面倒くささが出て来そう。父親不在にしたことが巧みだと感じた。

 周囲に無秩序攻撃を繰り出す少女を描いた『エクソシスト』でも父親不在だった。もしあの家に父親がいたら、無闇に神父と張り合って話がもたつきそうだ。『ポルターガイスト2』『来る。』では父親の変なプライドこそがリスク要因である。一方、『へレディタリー』は、「物分かりよ過ぎて何もしない」父親を描き、ヒール役は母親(そして祖母)に任せ、徹底した女系ホラーとして完成した。それ故に、ポストフェミニズムへの恐怖が表現されていると批評される(鷲谷花「恐怖のフェミニズム」『現代思想』三月臨時増刊号、2020年2月)。

 『レリック』の最後の着地点は古典的だ。しかし実際は家族ってそんなものではないかと思う。人には、どんな関係性から育っていたとしても、その関係性をベースにしたウェットな「情」が生まれる。ホラー映画では、情が物事を悪化させることが非常に多い。合理性こそが勝つ。それは現実でも同じだ。怪異が最初にその気配を見せた時点で、ケイは、エドナを老人ホームに入れるのが合理性だ。ケイは、毎月エドナのお見舞いに行くことしかしてやれない自分を肯定すべきだ。また、そうであって初めて、人生に拗ね気味の娘サムの心を解して励ませるだろう。そして、家族の形は変わっても三人がそれなりに幸せになる…今はそのような映画の方が称賛されるのではないだろうか。しかし『レリック』は決して家から「GET OUT」しない。その点が古典的だ。

 認知や行動に問題を抱えた近親者に対する反応は鋭い驚きと恐怖、疑念に始まり、じわじわと押し寄せる自己嫌悪、そして患者に対する薄暗い怒りだ。それは、我々が家族に対して持つ情に根ざしている。本作もだが、認知症ホラーは、ホラー描写の部分の方がはっきり言ってマシだ。怪異は原因を突き止めれば鎮まってくれる可能性があるが、現実の認知症は、怪異というクッション無しに、ひたすら悪化していくだけ。恐ろしいし腹立たしい。

 『ファーザー』に比べ、老いと認知の問題への描き方が汚いのは誠実だ。ゴミ屋敷同然のクローゼットは、エドナ(そして家の闇)そのものだ。汚いし臭いし散らかっている。

 冒頭で風呂から水が溢れ、一階にまで広がるシーンがある。日本の戸建て住宅の構造では、あのシーンは起こるまい。詰まるなら二階のトイレだ。そして、二階のトイレが詰まったのは誰のせいか。認知症の患者のせいに決まってる。ついこの前までは自分たちの世話を焼き、律してきたはずの母親であり父親であり配偶者が、それを何度も何度も繰り返すのだ。

 私は、「怒り」によって介護ストレスを発散しようとする人の心理が痛いほどわかる。別に怒ったところですっきりなどしない。夢の中で「もとに戻った」親族を様子を見てうれしくなったところで目覚め、濡れた枕を見つめた後、また怒りをぶちまける日々が続く。それこそホラーだよ。

 人権が守られない体制など打倒すべきだという意見と真っ向から対立する空間が、家族だ。先祖が当時の価値観で作り出した闇と呪いを、今を生きる、価値観も違う我々が引き受ける責任なんかあるんだろうか。ポリコレ的な正解は、個人を縛るものは全て破壊することだ。『ヘレディタリー』は、上記のような批判もあるが、家族を壊してしまうこと自体はポリコレ準拠的だと思う。

 ラストでサムは母親のケイより更に重い未来を予感し、それでも寄り添っている。果たしてどうするのが正解なんだろう。家族は選べないまんま、与えられた中で、我々は生きて死ぬ。家族の中で過ごす意味は、他人が決めることではない。自分で決めること。家族という呪いと付き合っていくことも、切り捨てることも、我々は、ホラー映画という異空間では不思議に冷静に判断することができる。

作品情報

原題 Relic
製作年 2020年
製作国 オーストラリア・アメリカ合作
上映時間 89分
監督 ナタリー・エリカ・ジェームズ

【奥付情報】
2021年8月31日発行
編集・発行:トランスフォーマー
デザイン:GRAHTHER
定価:600円(税込み)

Share!SNSでシェア

一覧にもどる