文=竹美
アメリカの映画を観ていると、10代で一丁前に愛してる!と言うので驚いたものだが、今じゃ、あんた達の年齢で愛の何が分かるって言うのよ、と思う老害認定ぎりぎりのおじさんになってしまった。
エリーは、幼い時に両親と一緒に中国からアメリカの田舎町にやってきた。高校の学業は優秀だが何となく浮いている。そして密かに女子生徒のアスターに思いを寄せていたものの、遠くから見つめるだけ。ある日アメフト部の男子ポールから、ラブレターの代筆を頼まれるが、意中の相手は何とアスター。メールや手紙のやり取りにのめり込むエリー、代筆とは知らずポールに少しずつ好意を持つアスター、エリーの教育によって少しずつ知らない世界を知っていくポール。三人の想いはどこへ…。
学業が優秀でピアノも上手い(アジア系あるある)エリーは、不本意ながら町の駅長に収まっている父親に気兼ねして、地元の大学に行くつもりだ。この田舎町で、つまんない毎日が続くのだろうなと諦めている。
ソーセージ屋の息子ポールは、家で代々守られてきたレシピだけではなく、新しいメニューを売り出したいと思っているが、家族は乗り気では無く、二の足を踏んでいる。
二人の憧れアスターは、町一番の金持ちの息子と結婚前提で交際している。父親は神父で、婚前交渉なんてもってのほかだが、あまり裕福でもなく、病気の父親を支えている中で、彼氏の家のお金が必要で、背に腹は代えられないのだろう。公認彼氏以外の男ポールと会うため隣町まで行く彼女は、アメリカ特有の「他人指向」に違和感を感じる知性を持ちつつ、表面上は流される方を選んでいる。そんな中で「文化」を理解しようとする男子ポールの登場にドキドキ。こんなクッソ田舎にもまともに文化を語れる男子がいるのかぁ?
アメリカの田舎では、今でも同性愛をまったく受け入れられない層がいることが示唆される。ポールが、エリーの気持ちにまったく気が付いていなかった(あるいは理解していなかった)ことが分かるシーンがある。色々と彼のダメさを見せるシーンだが、彼は同性愛について「それは間違っている」と言ってしまうのだった。
そんなこともありつつ、箸にも棒にも掛からない一介の「田舎の男子」だったポールが、エリーのことを少しずつ理解し、彼女の本当の味方になっていく様がよい。色々やらかす男子に過ぎなかったポールが、エリーから注意され、或いは教えられ、少しずつ自我を成長させ、物事を違ったふうに見直し、自分が本当にやりたいことにフォーカスしていく。つまり彼はあの若さで成長できる男子なの!珍しい!!!
現実的には、何が起きたか分からないまま成長もしない男子はそのまんま町に残され、同輩集団に流されながら『マンチェスター・バイ・ザ・シー』に特徴的なアメリカン・ソフトヤンキー層になっていくに決まってるのだが、男子でもまぁ…頑張ればいけるんではないの?ということか。
とは言え、女子に比べて男子の方が圧倒的に物事を分かっておらず、何か変化が起きても「偶然そうなった」感がある。男子にとって他の男子は「あいついい奴だよ」の評判だけで充分なのだが、女子にとっては全くそうではない。まして男子を恋愛の対象にしない女子にとってはナンセンスだろう。エリーとポールは、互いの利益を取引することで初めて交流が成立する。
後年、年をとればとるほど、エリーはどこにいようとも、きっとこう思うだろう。「あーあの時すぐにデキなくてよかった!」
いつでも若い時の恋愛は未熟でバカで恥ずかしい。でも、愛を手にすることは無くとも、学べばいい。愛は必ずしもいいものとは限らず、様々な側面を持つ。おまけにこれが最後じゃないのよ!それを学んだ者は地元をレリゴーする。その時必要なものは何か?一芸だ!!エリーは勉強、アスターは美術、ポールはソーセージ!ともかく勉強はしておいた方がいいということはよく分かった。
作品情報
監督 アリス・ウー
出演 リア・ルイス、ダニエル・ディーマー、アレクシス・レミール
製作年 2020年
製作国 アメリカ
上映時間 104分