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【PATU REVIEW】2021年のストップモーションアニメと日本

文=浦田行進曲

 今年は年明けから、ストップモーションアニメという言葉が一般に広く知られることとなった。言うまでもないが、『PUI PUIモルカー』の放送開始に伴うものだ。羊毛フェルトという比較的新しい素材でできた、丸っこいフォルムのキャラクターたちが今まで見たことのない表現で、可愛いだけではないお話を紡ぐ。コロナ禍で疲弊した心を癒し子どもも大人も夢中にさせている。また3月からは『JUNK HEAD』の公開が始まり、ほぼ1人で、7年かけて制作されたというエピソード込みで驚愕のこの長編SFも同じく話題となった。
 そんな折、満を持して公開された『アニメーションの神様、その美しき世界Vol.2&3 川本喜八郎、岡本忠成監督特集上映』。第1弾のユーリー・ノルシュテイン監督特集に続くシリーズで、30〜50年ほど前の作品を最新の技術を用いて制作当時の状態に可能な限り近づけたという4Kデジタル修復版にてそれぞれ短編を5本ずつ堪能できる。

 岡本監督のプログラムは作品ごとに様々な素材、題材が用いられ、今見ても斬新な表現が眩しい。1コマ1コマが絵本の1ページのように印象的な『チコタン ぼくのおよめさん』。幼い男の子のいじらしく可愛らしい姿を関西弁の合唱曲にのせて描く。「ぼく」の恋路に頬を緩ませていたらーー。この先は是非劇場で確かめてほしい。続いてはこちらも滑らかな関西弁が耳に心地よい『サクラより愛をのせて』。透明感のあるイラストでユーモアたっぷりに、3分という短い作品ながら非常に胸のすく作品だ。満員電車の迷惑男をやっつける、おばちゃんの秘策を実践してみたいと思ったのは私だけだろうか。翻って『虹に向って』で描かれるのは素朴で美しいラブストーリーだ。語り手の岸田今日子さんの懐かしく温かい声はそれだけでも涙腺が緩む。子どもの頃に繰り返し観たために、個人的に思い入れのある『注文の多い料理店』は、みんなのうた「メトロポリタン美術館」に通じる、少し怖いが目をそらせなくなる作品で今回大きなスクリーンで細部まで観ることができたのは感動だった。狐のおこんとイタコの婆さまとの友情を描いた『おこんじょうるり』は、土人形のような造形のキャラクターで、このタイプの人形が感情豊かに動いているのはあまり見たことがない。いったい何体の人形を使って制作されているのだろうか。おこんの唄う浄瑠璃は朗々としていて、人の病を治すという力に説得力があり手足ほかほかあたたまる。

 一方、川本監督のプログラムは人形芸術を突き詰めた、妖艶な魅力をもつ作品群である。初期作『花折り』は日本画のような舞台で繰り広げられる愉快なお話。絶対に何かやらかすに違いないと言った表情、動きで登場する何やら可笑しい小坊主の存在で、<花たをるなかれ>の札が掛けられた桜の木がいったいいつ折られてしまうのか胸が躍る。安部公房原作の『詩人の生涯』は、まさに詩的な表現を視覚的に見せてくれる作品である。『鬼』、『道成寺』、『火宅』は、鬼に蛇に地獄の炎といずれも恐ろしくて苦しくて美しい不条理3部作。殊に『道成寺』の、未亡人の風を受けて流れる黒髪、わずかに上下する肩の動きから見える息遣いには思わず息を呑む。川本監督から溢れる人形そのものへの強い愛情を感じ取ることができる。
 私も過去に自作の人形にてストップモーションアニメの制作を行ったことがある。手軽に作成するためのツールが存在する昨今ではあるが、それでも一コマずつ動かし撮影しては再生し確認、また撮影を繰り返す作業は想像以上に大変だった。人形が命を持って動いているように見せるのは難しく、なおかつアニメとしての面白さや観る者に印象を与える表現を付与するとなると天才の為せる業だ。
 2017年には日本人形アニメーションの父と呼ばれる持永只仁氏の展覧会を開催していた国立映画アーカイブでは、この3月まで「川本喜八郎+岡本忠成 パペットアニメーショウ2020」という展示が行われていた。大変楽しく拝見したが、今回の特集上映を観た今改めて、どうにか時を戻しまたあの人形たちに会うことができないかと考えてしまった。なお渋谷のヒカリエには川本喜八郎人形ギャラリーがあると知ったので、近々訪れてみたい。そして今後もこの素晴らしい「アニメーションの神様、その美しき世界」のシリーズがVol.4, 5と続いていくことを期待している。

関連パンフ情報

『ユーリー・ノルシュテイン監督特集上映 〜アニメーションの神様、その美しき世界〜』
【奥付情報】
編集:プレイタイム
アートディレクション:サイファ。
定価:700円(税込)

『アニメーションの神様、その美しき世界 Vol. 2&3 川本喜八郎、岡本忠成監督特集上映』
【奥付情報】
発行日:2021年5月8日
発行:WOWOWプラス
印刷:グラフィック
デザイン:岡野登、柴田理子(Chipher.)
編集:チャイルド・フィルム / プレイタイム
定価:800円(税込)

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