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【PATU REVIEW】「gifted/ギフテッド」〜自宅学習映画というジャンル!?〜

文=パンフマン

「もうこんな世界は2度と戻って来ないのでは?」昨年は映画館でスクリーンを見つめながら、そんなことばかり思っていた。登場人物がマスクをつけていないというだけで、日常的に目にする光景からかけ離れた描写にリアリティを感じられないこともあった。今までみたいに海外旅行へ行けなくなるのか。以前の世界に戻りたいのか。そもそも以前の世界とはどんなだったか。これからの現代劇はCOVID-19なしに描かれるのか。例年にも増して激動の年であった2020年は2010年代を振り返る余裕もなく過ぎ去ってしまった。何か書いておかないと遠い記憶へ忘れてしまいそうなので、今回は10年代で印象に残る映画の一つ『gifted/ギフテッド』を紹介する。

生まれて間もなく母親を亡くした7歳のメアリーは、叔父のフランク暮らしていた。彼はこれまで家庭内で勉強していたメアリーを初めて学校に通わせる。数学で驚くべき能力を持つメアリーにとって、算数の授業は簡単すぎた。これに驚いた担任と校長はメアリーをギフテッド教育を行う学校への進学を薦める。子どもらしく過ごせるのを望むフランクは提案を却下する。そこに祖母イヴリンが現れる。彼女は英才教育を施すことに賛成であった…とあらすじはこんな感じ。

監督は『(500)日のサマー』などのマーク・ウェブ。脚本も手がけている。よくある大人視点の非現実性が目に余る子どもではなく、等身大で伸び伸びと演じているメアリー役のマッケナ・グレイスが素晴らしい。叔父のフランクはキャプテン・アメリカで知られるクリス・エヴァンズとキャスティングも完璧だった。親切な隣人役ではオクタヴィア・スペンサーが出演している。彼女は『ドリーム』で実在の数学者ドロシー・ヴォーンを演じた自分と重ね合わせながら、女性の数学者や科学者への偏見を除いてくれる作品だと述べている。

舞台となっているフロリダ州・タンパは温暖な気候の町で、海も近く、2人が移住してきたのもわかる気がする。映画を盛り上げるのに欠かせない要素の一つ法廷劇が挟み込まれ、養育権をめぐる裁判のシーンとして重要な役割を果たしている。
この物語の焦点は天才的な能力を持った子どもはどこで学ばせるのが良いのかだ。フランクは自身が幼少期に英才教育を受けてきたことプラス自分の姉のことが原因で、むしろ普通の学校に通わせるのが良いと考えているが、周りの教育者や祖母はそうではないと考えている。周囲の大人たちが右往左往し、結果的に環境が変わり、子どもを疲れさせているのは、この話が抱える唯一の辛いところだったりもするのだが、印象的な猫も登場するし、全般的に清々しい作品である。

子どもを家で自宅学習させるのか、学校に通わせるのかというテーマは2010年代のアメリカ映画で目立っていたように思う。例えば、群像劇的な視点が優れていた『ワンダー 君は太陽』は顔に疾患を持った少年がこれまで勉強していた家から学校へ通う選択をした物語であった。『ブリグズビー・ベア』(2017年)は自宅で学び続けていた子はいざ外に出ると全く適応できず、やっぱり学校の教育は必要なんだ!という展開とは真逆の周囲の助けがありながら、上手く世界に溶け込んでいく様子を描いていた。

『リアム16歳、はじめての学校』(2017年)の舞台はカナダだが、母親から自宅で英才教育を受けていた男の子が主人公。劇場パンフによると、監督の身近な人も高校卒業までは家で勉強する「ホームスクール」(自宅学習)で育っており、映画の題材として関心を持ったという。また2016年の時点で、学校に通わず自宅で学習する子どもは全米で230万人いたとの記載がある。原題は「Adventures in Public School」で、初めて公立学校に行ってみた体験を面白おかしく描いており、自宅学習と学校とのいいとこ取りを描いた内容になっている。

最低映画に贈られるゴールデンラズベリー賞で作品賞を受賞したファレリー兄弟が主導したオムニバス・コメディ『ムービー43』(2013年)にも「自宅学習(Homeschooled)」と題した短編があった。ナオミ・ワッツとリーヴ・シュレイバーは実生活でも夫婦であるが、友人に自身の子どもを自宅で学習させていると話す内容。学校で体験するようなことを家でさせているのだが、そうやって育てるとどんな子になるのか。笑っていいのか、自宅学習とか上手くいくわけないだろと皮肉ったつもりなのか、非常にリアクションに困るオチがついている。

ヴィゴ・モーテンセン演じる父親がキャンピングカーで移動しながら、6人の子どもを自らの手で学ばせるストーリー『はじまりへの旅』(2016年)もあった。資本主義の弊害を説き、人里離れた森でサバイバル術を教えたりする。終盤で使われるとある曲のカバーが意外だった記憶があり、こんな家族本当にいたらなあと思った人もいるかもしれないが、私が小さい頃にテレビで似た家族が出演しているのを見たことがある。インタビュアーが、ドラえもんやサザエさんを知っているかといった質問をし、浮世離れした生活をする一家の子どもが名前は聞いたことがあると答えていたのを憶えている。

そんな実在の家族がモデルなのが『ガラスの城の約束』(2017年)。社会のルールから外れ、自由気ままにあちこちを転々としながら暮らした幼少期から人生を振り返った作家・コラムニストであるジャネット・ウォールズによる本が原作。パンフには作品への肯定的な見方(感動的!)と否定的な見解(毒親!)が掲載されている。確かに感想が真っ二つに別れてもおかしくはない内容で、本当にあったことで勇気づけられる人もいれば、それこそが残酷に刺さってしまう人もいるのだ。

自宅学習がアメリカで普及した背景には様々な理由がある。クリスチャンの家庭では、宗教・モラルの教育において公共の学校では不十分と考えられていた背景がある。『キャリー』(オリジナル1976年、リメイク2013年)では狂信的なキリスト教である母親は学校での教えより自分の教えを娘に優先させていた。1970年代後半に教育学者ジョン・ホルトにより提唱された「ホームスクーリング運動」が走りとされている。ダスティン・ホフマンの代表作『卒業』(1967年)には続編の小説『卒業 Part2』がある。その原題は「Homeschool」なのが面白い。11年後の1978年が舞台で、あの後二人は子どもを自宅学習させていたのだった。当時はまだホームスクールは先駆的な活動だったとうかがえる。

学習環境は変わった。学校版Airbnbとも呼べるスタートアップ「CottageClass」も登場した。これは、ホームスクーリングで学ぶ子供たちと親、さらに教師がつながるプラットフォームを提供したものだ。コロナ禍でさらに変化した。『はじまりへの旅』と同じような移動しながら学ぶ家族も再び登場してきている。
Home schooling is a hot topic in the pandemic. Is road schooling next?

自宅学習といえば父親が戦闘技術を娘に叩き込む『キック・アス』(2010年)もそのジャンルだろう。スポットライトが当てられにくい人々を写し出したデブラ・ブラニック監督の『ウィンターズ・ボーン』(2010年)、『足跡はかき消して』(2018年)も他の学習の切り口から紹介したかったけど、ここで文字数。これからも増えてくるだろう「自宅学習映画」にも注目!

作品情報

『gifted ギフテッド』(2017)
好評だったシリーズFOXサーチライト・マガジンのvol.9
52ページ・B5定型

【奥付情報】
発行日:2017年11月23日
発行権者:20世紀フォックス映画
編集:下田桃子
デザイン:塚原敬史、岩間良平(trimdesign)
印刷:大洋印刷株式会社
定価:820円(税込)

関連パンフ情報

『はじまりへの旅』(2017)
良パンフの定番キーワードを集めたA to Zが掲載
24ページ・B5定型

【奥付情報】
発行日:2017年4月1日
編集・発行:松竹株式会社事業部
編集:今井悠也(松竹)
デザイン:thumb M
印刷:日商印刷株式会社
定価:667円+税

『リアム16歳、はじめての学校』(2019)
ノート型の表紙
28ページ・B5定型

【奥付情報】
発行日:2019年4月27日
原稿執筆協力:村尾泰郎
発行・編集:エスパース・サロウ
デザイン:潟見陽
定価:600円(税込)

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