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【PATU REVIEW】カレイな男たちのアウトレイジな後始末

文=小島ともみ

還暦を過ぎたジイさんたちが一念発起して強盗を企てる――既視感のある内容なのは無理もない。まずは本件、もともとは2015年にイギリスで実際に起きた金庫破りなのだ。すでに先行して二度、映画になり(『ジーサンズ・ジョブ 最後の強盗(2016)』と『ハットンガーデン・ジョブ(2017)』)、また後続で4話完結のドラマが制作され(『ハットンガーデンの金庫破り(2019)』)と、事件直後から4年の間に本作を含めて4度も映像化されている。それだけ世間を騒がせたどでかいヤマだったということだ。4作ともほぼ忠実に事件を追った内容である。違いはと言えば、出演者の顔ぶれと、実行犯のうちの一人がいまだ逃亡中で事件の全容が明らかになっていないため、「推測」で描かれている脚色の部分。『キング・オブ・シーヴズ』はサイドストーリーを極力省き、6人の実行犯にとことん焦点を当てた。名優たちの丁々発止が楽しめる構成だ。

「泥棒の王(キング・オブ・シーヴズ)」と呼ばれ、数々の重大窃盗事件に関与してきたブライアン(マイケル・ケイン)。今は裏社会から足を洗い、妻と穏やかな二人暮らしを送っている。瀟洒な家に住み、妻とは最高級五つ星の「サボイ・ホテル」やクラシックな高級レストラン「ウィルトンズ」やミシュラン二つ星のフレンチ「ル・ガヴローシュ」などで食事を楽しむこともあった…日々は突然終わりを告げる。妻が病で急逝してしまったのだ。意気消沈し、パリッとしたジャケット姿一転、昼間から酒を片手にガウン姿で家をうろつくブライアン。妻に先立たれた男は早死にしがちという図のまんま。そういえば『裏切りのサーカス(2011)』でも、滅私奉公したサーカスをクビになったスマイリーが、諸般の事情により妻不在の家でひとりボサ髪のまま起き上がる場面があった。鏡に映る冴えない姿を見つめながら思い出すのは栄光の日々。それに引きかえ、今の自分はどうなんだ? プライドはあるけれど、趣味も友人も居場所もない男たちは、リタイアしたはずの世界に舞い戻って行かざるを得ないのだ。亡妻に「悪いことは二度としない」と誓ったはずのブライアンも、そんな心の澱をいいようにかき乱されて、英国犯罪史上最高額の金庫破りへと乗り出していくことになる。

ブライアンはまずかつての犯罪仲間に声をかけるのだが、三つ子の魂百までとはよく言ったもの。孫がいたり、細々と家庭菜園をしたりと、ごく普通の市民生活を送っていた(=暇を持て余していた)ジイさまたちの目の色が変わる。パブで酒をあおりながら意気揚々と計画を練り、「その日」へと向かっていくのだ。強盗が遂行されるまでの前半部分はテンポよく進む。実際はここまで手際よくはなかっただろうが、カット割りの妙が効いてなかなかにクールだ。「糖尿病持ちで定時にインシュリンを打たないと動けなくなる」とか、「腰が」「膝が」とぼやいたり、肉体的にヘビーな役割を押しつけあったり、テクノロジーに弱いアナログ体質を露呈しまくったりと、随所に差し挟まれる老人ネタが頬を緩ませる。笑いを誘いつつも「ちゃんと自分の老いを受け入れて自虐ネタにできる英国のジジイ、たいへんに格好いい」とすら感じさせる。かくして無事にお宝を手に入れ、あとは山分けするだけ。めでたし、めでたし…では終わらないのがイギリス映画の最たるところ。本作の見所は、実はここから始まる。

計画の途中で抜けたリーダー格のブライアンだったが、強盗事件をセンセーショナルに伝えるニュースを見て、「俺が始めたヤマだ」と居ても立ってもいられなくなる。分け前が欲しいも本音だが、むしろプライドをいたく傷つけられたことに憤怒するマイケル・ケインの恐ろしさ。妻との語らいで見せていた柔らかいジェントルマンな表情は消失、強欲な悪党の凶悪な面構えに変わっていく。そんなブライアンに相対するのは、ふんぞり返って指示を出すだけの彼を疎ましく思い下剋上を目論んでいたテリー(ジム・ブロードベント)、その腰巾着のダニー(レイ・ウィンストン)、ブライアンとテリーの間を舌先三寸で渡り歩くジョン(トム・コートネイ)。なまじ知った仲だけあって、お互いの手の内も性格もお見通しだ。そこに猜疑と思い込みが加わって、ドリームチームはあっさり分裂、『アウトレイジ』の様相を呈する。どんなに格好よく見える犯罪でも、犯罪は犯罪。手を染める犯罪者のダークな一面を容赦なくあぶり出していく。
彼らは、孤独だ。ヤマを踏むためだけに組み、離れ、時に裏切りを繰り返し、心を許せる友を持たず、家族とも疎遠になり、老年を迎えた。若ければ失敗や逆心は次こそという原動力になったかもしれないが、年老いた今は疲労となり傷となって心身を痛めつける。それでも、彼らはやめられない。性(さが)と言ってしまえばそれまでのこと、しかしその内情は「いさめてくれる人がいない」「親身になってくれる人がいない」「助けてくれる人がいない」孤独が彼らを再犯へと導くのではあるまいか。
高齢大国・日本はどうだろう。平成30年度版の『犯罪白書』特集によれば、日本の高齢者の犯罪率は増加傾向にあるという。刑法犯検挙人員自体は、平成16年をピークとして最近10年間は大きく減少している。その一方で、高齢者率は毎年上昇を続けており、平成10年の4.2%が平成29年には21.5%と5倍近くに膨れあがっている。返ってくる保障のない年金を払わされる私たちだが、この先は上昇する高齢犯罪率にも悩まされるかもしれない。ともなれば、それなりの年金を糧に手厚い施設に入って穏やかに最期を迎える…というのが老人としての(そして私たちの世代が望むべくもない)「上がり」というのは言葉が過ぎるだろうか。
先ごろ「秩序ある政権移譲」を行ったトランプ元大統領も、大統領としての最後の演説で「私たちが起こした運動はまだ始まったばかりだ」と言い残しており、グレタさんが送った(意趣返しの)ツイート「彼は輝かしく素晴らしい将来を楽しみにしている、とてもご機嫌なご老人に見える。いいですね!」のようには「終われない」ようだ(もっとも彼は今のところ犯罪者ではないけれど)。
老人たちの仁義なき泥仕合になんとなし暗い気持ちにさせられる後半だが、全編にわたって散りばめられる彼らの若かりしころの映像(マイケル・ケイン/『ミニミニ大作戦(1969)』、トム・コートネイ/『うそつきビリー(1963)』、レイ・ウィンストン/『スカム(1971)』)と、彼らのかつての犯罪のように現れるクラシックな映画の数々(『ラベンダー・ヒル・モブ(1951)』、『大列車強盗団(1967)』、『ロンドン大捜査線(1971)』、『Sweeney!(1977:日本未公開)』)は、お見事!というしかないほど驚きと魅力に満ちた引用だ。ポスタービジュアルにもなっているキメのスーツ姿の場面に驚かれよ。名優たちの本領発揮にときめく瞬間である。
メンバーの中で唯一の若者であり、本事件の発端となったバジル(チャーリー・コックス)。ジイさまたちにいいように使われなじられ、一見かわいそうに見えるが、老人の虚栄心を巧みにくすぐり、「泥棒はボクサーと同じで、まず脚が動かなくなる。そして反射神経が鈍くなり、友達がいなくなる。自分のために懸命になれ」というブライアンのアドバイスを忠実に「守る」。実はこいつが一番食えなくて、賢いヤツだったんじゃないかと思う。前作『喜望峰の風に乗せて』が個人的には微妙だったジェームズ・マーシュ監督だが、本作で描かれる人間の暗さと醜さ、皮肉の利き方は程よくていい。

作品情報

『キング・オブ・シーヴズ』
監督:ジェームズ・マーシュ
出演:マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、チャーリー・コックス、ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボン他
2018年/アメリカ
King of Thieves

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