文=やしろ 妄想パンフイラスト=ロッカ
自分も大概怒っているのだけど、それ以上に怒り狂っている人を見るとサーっと我に立ち返る瞬間ってあると思うんです。今回見た「初仕事」はそんな男2人の感情のすれ違いのドラマでした。
半年前に妻を亡くし、立て続けに生後1ヶ月の娘を亡くした安斎は、娘の遺体を写真に残してほしいと友人の和夫に依頼するが、代わりに助手の山下が派遣されます。山下の来訪に安斎は自嘲と怒りをぶつけ、激しく拒絶するのです。山下も反感を覚えますが、安斎の「娘の姿を永遠に残したい」の言葉に、ここまで利己的な気持ちで来た自分を恥じ、安斎の為に、娘の為に初仕事に臨む決意をします。
改めて撮影を依頼する安斎。倫理観を捨て使命感で邁進する山下。撮影2日目。早朝から撮影準備をする山下が、娘の遺体に話しかけた瞬間、ある決定的な出来事に捕まります。これをきっかけに2人の関係にすれ違いが生じます。
一見、この映画は使命感と倫理観の揺らぎをテーマにしてそうですが、実は安斎と山下のブロマンスが本質だと思いました。明確な描写はありませんが、そもそも安斎の目的は遺体の撮影ではなく、ある人物に会いたかっただけなのかもしれません。その目的を果たした安斎は、徐々に妻と娘への執着を忘れようとしている節があります。同じ使命感で歩んできたと信じていた山下は、そんな安斎を許せず焼肉屋でなじりますが、それはおそらく、使命感からではなく嫉妬からでしょう。
「あなたと言う人が好きだったのに…」
そんな山下に安斎は別れ際、駅の待合室である言葉をかけます。山下の情念を断ち切るこの上ない一言を…。
安斎役も演じる小山監督の長編1作目となる本作。自主映画ならではの粗削りな部分もありますし、かなりの低予算なのが観て取れますが、そのぶん人物を徹底的に描く事で、作品の質を高めています。安斎と山下の2人の持つ魅力もさる事ながら、彼らを取り巻く人々も、ストーリーを上手く転がす事に成功していて、94分の上映時間があっという間でした。もっと劇場で公開されるべき作品だと思いました。
妄想パンフ
正方形アルバムを意識。表紙は今作を象徴する画。
中身は妻と娘の在りし日の姿を。あなたは安斎と山下、どちらの気持ちで眺めますか?
作品情報
『初仕事』(原題:同)
監督:小山駿助
キャスト:澤田栄一/小山駿助/橋口勇輝
94分/カラー/日本語/英語字幕/2020年/日本 長編1作目の監督作品