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【TIFF2日目レポート】平成最後の桜『カム・アンド・ゴー』

文=浦田行進曲 妄想パンフイラスト=映女

7カ国語のセリフが入り混じり、主な登場人物は18人(浦田調べ)、2時間40分の長尺の中でそれぞれが居場所を探して行ったり来たりする。

マレーシアの出身で、日本語を含む多言語話者であるリム・カーワイ監督の最新作『カム・アンド・ゴー』は、『新世界の夜明け』(2011)、『Fly Me to Minami~恋するミナミ』(2013)に続く大阪3部作の完結編。かつては水の都と呼ばれた大阪の、キタ──梅田周辺半径5キロメートル内が本作の舞台である。

時は平成のおわり、令和のはじまり。前2部が製作された頃よりも、遥かに多くの国から人々が訪日している。多国籍化が進む現状に対し、それをとらえて描く映画があまりないことが、本作製作にあたる動機のひとつであったと監督は言う。2年後、未曾有の事態の只中にある2020年、街中で外国語を耳にすることもすっかり少なくなった。切り取られたその頃の日本を私たちは不思議な気持ちで眺めることになる。

勤務先との契約で帰国を許されないベトナム人、宿無しの貧しい日本人女性、アダルトショップに入り浸る台湾人、マレーシアから出張中のビジネスマン、授業料が払えず昼夜働くミャンマー人留学生等々、日本の抱える問題に直面するたくさんの人々が入れ替わり立ち替わり登場する中、白骨化した状態で見つかった85歳の女性のニュースが流れ続ける。
人物たちが互いに大きく関わり合うことはなく、皆自分自身のことで精一杯で、同じ場所で起こっている別の問題を気に留めることができない。

撮影時に台本は渡さず、その場でシーンの内容について監督から伝え、セリフは俳優自身の言葉で発する方法で撮られたと言う。役者として出演している桂雀々、千原せいじのまさに生き生きとした大阪弁が心地よい。
監督自身が舞台となる中崎町に住んでいるといい、熟知した街が具体的なイメージを持って映しだされるため、そこにその人物が存在することが疑いなく見える。それゆえ織り込まれる社会問題が一層生々しく映る。

奇しくも本作を鑑賞し劇場を出た後、スマホを開くと「大阪都構想住民投票、反対多数が確実に」というニュースが飛び込み、ほっと大阪の街に思いを馳せつつ帰路についた。

妄想パンフ

登場人物のひとり、マユミが観覧車から見た景色をイメージし、街自体が主役の映画であるため地図を配したデザインに。これからも心の居場所であり続ける映画館の未来を☆に密かに忍ばせる。
中身ではリム・カーワイ監督のこれまでの作品について、アジアの地図上に舞台となった国をそれぞれつないで網羅的に紹介したい。

 

作品情報

『カム・アンド・ゴー』(Come and Go)
予告編はこちらから
監督:リム・カーワイ [林家威]
キャスト:リー・カンション、兎丸愛美、千原せいじ、渡辺真起子
作品公式サイトhttps://www.facebook.com/comeandgo2019
158分/カラー/日本語、英語、北京語、韓国語、ネパール語、ベトナム語、ミャンマー語/英語字幕/2020年/日本・マレーシア

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