No42【TIFF8日目レポート2】孤独な男の行末は『荒れ地』

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文=やしろ

氷を乗せた荷馬車が荒れ地を土埃を立てながら進む。馬の蹄が立てる音とごうごうという風の音。男が向かう先には、煉瓦工場の煙突が不穏さを湛えながらそびえ立っている。

『荒れ地』はモノクロのイラン映画である。

荷馬車の男、ロトフォラー(アリ・バゲリ)はこの煉瓦工場の元で40年間生まれ育ち、工場の労働者とボスとの仲介役を務めている。建材の需要として年々煉瓦は不要になり、一帯に50あった煉瓦工場の最後のひとつであるこの場所も閉鎖が決まった。

今後の生活について不安を持つ老人、親の反対を押し切って恋人と結婚したい男、昇給の約束を反故にされているクルド人の男、それぞれがボスの元を訪れ要求を訴えた後、みな同じようにロトフォラーの不審な行動を告げ口し、家に帰り家族とともに食事をし、白い薄布に包まれて眠る。ボスが労働者たちを集めて工場の閉鎖を伝える同じ場面と、労働者たちがボスの元を訪れ眠るまでの一連の行動が繰り返し映される。

ボスからは都合よく利用され、労働者からは不満の矛先を向けられ疎まれるロトフォラー。家族がおらず、この地を出たことがない彼を残し、彼が気にかけていた美しい女性サルヴァル(マーディエ・ナッサジュ)を含めてみなが新しい場所へと旅立ってしまう。不器用で孤独な男が手にした氷はゆっくりと溶け、したたり落ちる雫がぴたぴたと地面を打つ音が響く。

暗い煉瓦工場に差し込む強烈な光、風とともに吹き込む砂煙、夜をうごめく動物たちの鳴き声、チャイを受け皿に移し角砂糖を浸して飲む動作。
やがてロトフォラーを完全な闇が包むまでを、白黒の美しい映像と音で映し出している。

作品情報

『荒れ地』(The Wasteland [Dashte Khamoush])
監督:アーマド・バーラミ
キャスト:アリ・バゲリ、ファッロク・ネマティ、マーディエ・ナッサジュ
作品公式サイト
103分/モノクロ/ペルシャ語/日本語・英語字幕/2020年/イラン

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