No39 【TIFF6日目レポート4】ドードーなおもて月世界へ往く、いわんやかの3人をや『デリート・ヒストリー』

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文=やしろ 妄想パンフイラスト=ロッカ

2018年のフランスで起きた燃料税の引き上げに抗議したイエロージャケット運動は、ネットでの緩いつながりを発端にEU各地へと飛び火していった。週末には交差点のロータリーを占拠して、デモ活動を行ったり、当初の実態は非常に穏健なものだったと言われている。

この映画の主人公、マリー、ベルトラン、クリスティーノの3人もイエロージャケット運動に参加して、ネットを介して繋がった連帯感と、デモに参加した誇りを共有していました。しかし残された現実は優しくなく、夫と息子に逃げられた無職のマリーは身の回りの物をネットオークションで売りさばいて暮らしています。カードローンで借金まみれのベルトランは、燃料税が払えず持っていたディーゼル自動車を手放さざるを得ない上に、娘は同級生からfacebookでネットいじめに遭っています。ドラマ依存症のクリスティーノも貧困から家のリビングをイスラム教徒の礼拝に貸し出しつつ、送迎車のドライバーで糊口をしのぎますが、評価は常に☆1つという惨憺たる状況です。3人とも郊外の低所得層向け住宅に住み、金銭で問題は抱えつつもイエロージャケット時の連帯感を緩くもちながら暮らしています。

状況を打開しなきゃならないことは理解しているのです。ネット社会という末法の世界と関わらざるを得ない現代。ネットで手に入れた目先の情報に囚われて、本人の思惑とは違う方へと転落していきます。それはもう気持ちいいほどに。OK!失敗した事はわかる。何が悪かったのかもわかる。わかっちゃいるけど…わかっちゃいるけどヤメられない!
逃れられない業に翻弄される彼らは滑稽で笑うしかありません。「近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇になる」と言いますが、彼らをスマホと同じくらいの超至近距離で見ても、やはり哀しいまでの喜劇です。大の大人がロバに噛まれて叫ぶだけのシーンなんて笑う以外の何ができましょう(ロバは石炭産業を支持基盤に持つアメリカ共和党の象徴で、トランプ政権が二酸化炭素の排出削減を目指したパリ協定を離脱したことから、ディーゼル車を手放すことになったベルトランに仇なしていることのギャグというかメタファーです)終盤、滑稽の骨頂として、この最低な状況を覆すべく、ある復讐を計画します。まるで風車に突撃するドン・キホーテの様に。…そして思うのです。
彼らの何と業の深きことよ…。

そして映画はこんな3人の業の肯定で幕を閉じます。ダニエル・ジョンストンの「sence of humor」がエンドロールで流れ、不思議なハッピーエンド感を置き土産にして。こなた劇場を出て無意識にスマホを開く僕は、画面に映る自分と目が合うのです。さっきまでネットに踊らされていた彼らを笑っていた自分の目と。

妄想パンフ

A5縦 表紙はわたしはロボットではありません画像できちんと認証してもらって、中身はコーヒーがかかってる様な感じで、観た人はわかるとんでもない悲劇の形跡を再現

作品情報

『デリート・ヒストリー』(原題:Delete History[Effacer l’historique])

予告編はこちらから

監督:ブノワ・ドゥレピーヌ、ギュスタヴ・ケルヴェン
キャスト:ブランシュ・ギャルダン/ドゥニ・ポダリデス/コリンヌ・マジエロ/ヴァンサン・ラコスト

106分/カラー/フランス・英語/日本語・英語字幕/2020年/フランス・ベルギー

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