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【TIFF6日目レポート2】映画パンフから生まれた映画!? 岨手由貴子監督6年ぶりの新作『あの子は貴族』

文=高城あずさ 妄想パンフイラスト=映女

東京の箱入り娘・榛原華子(門脇麦)が、地方から上京し都会を自力で生き抜く時岡美紀(水原希子)と出会い、互いに人生を切り拓いていくシスターフッド・ムービー。山内マリコの同名小説を、『グッド・ストライプス』で新藤兼人賞金賞を受賞した岨手由貴子が監督した。

原作と同じく3つの物語に章立てされた本作は、門脇が舞台挨拶で「前半と後半で違う映画みたい」と語ったように、華子の人生、美紀の人生、そしてふたりの出会いをそれぞれ異なるアプローチで描く。章を経るごとに浮かび上がる人間関係の俯瞰図と、個々の感情の機微に迫った演出の対比が見事だ。

「東京は棲み分けされてるから、違う階層の人とは出会わないことになってるんだよ」
映画の冒頭、華子の友人・逸子(石橋静河)が軽やかに語るこのおぞましい台詞は、本作に通底するテーマだ。華子と美紀は決して交わることのない、都会の異なる階層を生きている。そんなふたりを繋ぐのが、華子の婚約者・青木幸一郎(高良健吾)の存在だ。幸一郎は、華子と婚約しながら美紀ともだらだらとした関係を続けている。そんな美紀が華子を見た瞬間、最初によぎった言葉は「敗北」だろう。だがその二文字は、華子の純真無垢な態度ですぐに打ち消される。女性監督が紡ぐ女性の物語、「女の分断」とか「足の引っ張り合い」とは無縁なのが清々しい。

劇中では何度も「階級」という言葉が使われる。しかし華子と美紀の関係を見ていると、この世の中にはヒエラルキーなどなく、本当はわたしたち、もっとホラクラシーっぽい世界に生きているんじゃないのと思えてくる。美紀が生まれた地方都市も、華子の生きる富裕層も、閉鎖的で退屈、保守的という意味では似たり寄ったり。そんな複数のコミュニティを行き来する「油断ならないヤツ」(本作では幸一郎)はどこにでもいて、そういうヤツはいとも簡単に異世界の住人たちを繋げてしまう。周りの人間にかすり傷を負わせながら、新しい価値観を運んでくるのだ。『パラサイト』ではパク・ソジュン演じる家庭教師がそうだった。高良健吾もソジュンも、結局はグッジョブなのだ。ちょっといけすかないけど。

また映画の中盤で美紀が自嘲気味に語る「(私たちは)東京の養分」という台詞も印象的だ。ここでも華子と美紀は共通点を見出す。何不自由なく育ってきたかのように見える華子も、女性に生まれ落ちたが故に、自らが名家の養分となることで人生サバイブしている。幸一郎からは「結婚してくれただけで十分」と言われ、義母からは「身体、ちゃんと温めてね」と声をかけられる(もちろん華子を慮っての言葉ではない!)。この場面、これまた今年公開の韓国映画から『82年生まれ、キム・ジヨン』を彷彿とさせた。そんな華子と美紀が、おそらくはちょっとだけ自分の成分が混じった東京のアスファルトを両足で踏み締める瞬間の爽快感といったら! 舞台挨拶で水原が「女性だけでなくみんなに観てほしい」と語る所以だ。

最後に。筆者はこの作品の宣伝で「シスターフッド・ムービー」という言葉を初めて知った。ためしにGoogle検索してみると、’brotherhood’ は約1億2000万件ヒットするのに対して、 ‘sisterhood’ はたったの約2300万件! どうやら、まだ市民権を得ている言葉ではない。でも思い返せば、あれもこれもシスターフッド・ムービーだったなあと想起される作品はたくさんある。今後、推したいジャンルだ!

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実は本作が生まれたきっかけは、岨手監督の前作『グッド・ストライプス』のパンフにあるのだそう。山内マリコさんがここにエッセイを寄稿した縁から、『あのこは貴族』映画化の話に繋がった。 「映画パンフから生まれた映画」……映画パンフを愛する私たち・映画パンフは宇宙だ(PATU)的には、あまりにも胸熱のエピソード!

『グッド・ストライプス』のパンフレットはこちら

山内マリコさんのエッセイ、特別公開中です

今回は【妄想パンフ】はお休み……と言いかけたところでビッグニュース!

実は本作のポスタービジュアルを手掛けたのは、われらがグラフィックデザイナー・大島依提亜さんとイラストレーター・塩川いづみさん。おふたりは、本作のパンフでも、タッグを組まれるのだとか、組まれないのだとか……という、耳寄りな情報をゲットした。
違った意味で妄想膨らみっぱなしのPATUメンバーなのでした(垂!涎!)

作品情報

『あのこは貴族』
予告編はこちらから
監督:岨手由貴子
124分/カラー/日本語/2019年/日本

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